第百九十六話 移動手段
エレシスと合流したランツァ一行。
アンゲルスの秘密基地へと向かうため、エレシスが入り口を作り出す。
うっすらと、少しずつ浮かび上がってくる魔法陣。
それを見ていたランツァは、今まで訊いていなかったあることをエレシスに尋ねる。
「ずっと気になってたんだけどさ、その入り口ってどうやって作るんだ?」
「それは後にしてください。万が一先輩方が認められなかった場合、内情を漏らしたことで僕が裁かれますので」
すみませんと、少々困った表情で答えるエレシス。
ランツァはそれもそうだと納得しながら頷いてみせた。
そんなランツァを見ながら、エレシスは続ける。
「ちなみに、これは基地に直接通じている入り口ではないんですよ」
「それは、どういう意味……?」
エレシスが何を言っているのかわからず、ランツァは頭上に疑問符を浮かべていた。
「アンゲルスの基地へ足を踏み入れたことのある者なら、いずれ理解することになるのでこれだけは教えます。入り口はどこにでも作れるものではないんです」
どこにでも作れるものではない。
その言葉を聞いた瞬間、ランツァは最初にアンゲルスへ訪れた時のことを思い出した。
(あの時、キリエはわざわざ移動して入り口を作っていた……)
そう。
特定の場所でのみ生成可能であるからこそ、キリエは移動して入り口を作っていたのだ。
だが、エレシスのやり方は違う。
入り口を作れる場所へ向かうことはなく、この場で何かを生み出そうとしている。
おそらくそれは、移動を不要にするためのもの。
つまり、どこにいてもアンゲルスへの入り口を作り出せる手段。
一見便利に見えて、実は非常に危険。
そのことに、ランツァはすぐに気づいた。
もし、敵にこの方法を使われてしまうようなことがあったら――。
(あんな怪物に、敵うはずがない……)
ランツァの脳裏に浮かぶ、ある王の姿。
斬り落としたはずの腕を、いとも簡単に治してしまう化け物。
それは……不気味に笑う、ロイドの姿。
途轍もない不安に襲われながらも、ランツァは今自分にできることだけを考えるようにする。
そして、
「できましたよ」
遂にエレシスが入り口の生成を終え、彼らは魔法陣に呑み込まれるようにその場を跡にした。