第百九十三話 加速の王VS死者の王
「死者の王ともあろうお方が、敵の命を救おうとするなんてな……」
ロイドはムレイの行動を不審に思い、左腕を掴んでいる黒い手を振り払うようにしながら距離を取る。
一旦、ランツァを放置することになるが、何もできないだろうと判断して。
ロイドが距離を取ると同時に、視界にムレイの姿が入る。
その姿は、黒い煙のようなものに覆われた漆黒の人骨そのものだった。大半は煙に覆われ、見える骨は僅かなのだが。
宙に浮いている大人サイズのそれを見れば、誰もがこう問いたくなるだろう。
生きているのか、と――。
「俺の意志ではない。ソール様のご命令だ」
ムレイは自分達悪魔の主から命じられたことを告げるが、そんなことロイドにはどうでもよかった。
誰から命じられていようが、敵を助けようとするなど言語道断。
決して犯してはならない罪同然なのだ。
それに、ロイドは何よりも自らの行動を邪魔されたことが腹立たしかった。
「ハッ! あの野郎の命令に、この俺様が素直に従うとでも?」
故に、
「これ以上邪魔をするなら、ソール含めテメェも殺すぞ」
ドスの利いた声で、ロイドは殺意を剥き出しにした。
一方、ムレイは冷静に対応する。
「あまりお前とは争いたくないんだが……。ソール様の命に背くというのであれば、容赦しない」
「ほう……。ならどうする? この俺様を殺すか?」
静寂が、流れる――。
ロイド、ムレイ共に全く動かない。
暫くして、漸くムレイが重い口を開いた。
「お前が能力を展開している以上、俺に勝ち目はない」
「意外と利口じゃねえか」
ニヤリ、と不気味に笑うロイド。
だが、とムレイは続ける。
「止めないわけではない」
その直後だった。
ムレイがロイドに向かって突っ込みながら、漆黒の拳を後方に下げる。
放たれる拳をロイドは冷静に確認し、余裕をもって回避するのだが。
「――――!?」
超高速移動により、ムレイにはロイドが消えるように見えていた。
さらに、その移動でロイドはムレイの背後へと回り込んでいたのだ。
「ほれほれどうした? 俺様はこっちだぞ?」
だが、死者の王であるムレイがこの程度で終わるはずがない。それをロイドはわかっていた。
なのに、
「おいおい、そりゃ反則だろ」
徐々に姿を消していくムレイを見た時は、流石に動揺を隠せなかった。
(どこにいやがる……)
そうロイドが思っていると、突然横腹に衝撃が走った。
「チッ……!」
同時に、ムレイが再び姿を現す。
無防備だったロイドは蹴り飛ばされ、派手に壁を破壊して土煙を巻き起こさせた。
「おとなしく、ソール様の命に従え」
ムレイはロイドにそう促し、さらに謎の言葉を付け加える。
「お前に、勝ち目はない」