第百九十話 生還の可能性
「さて、どうやって殺してやろうか……」
ロイドはこの上ない楽しさに浸っていた。
眼前で動けずにいるランツァを今すぐ殺したい。ただそれだけの欲。そして、それを簡単に叶えられるこの状況。
その全てが、ロイドにとって最高の快楽なのだ。
「堪らねえなぁ……。じっくり甚振って殺すも良し、一瞬で止めを刺すのも良い。なぁ小僧、テメェはどうされたい?」
不敵な笑みを浮かべながら、ロイドはランツァの目の前まで顔を近づけて尋ねた。
「…………」
だが、返答はない。
いや――
「まあ、このままじゃ話したくても話せねえよなぁ……」
ランツァは今、全く動けないが故に話すこともままならない。
つまり、返答がないのではなく、返答できないのだ。
「仕方ねえなぁ……。テメェの意見も尊重してえから、解いてやるよ」
直後、ランツァは何かしらの呪縛から解放されたことに気づき、一瞬でロイドから距離を取る。
「何のつもりだ……!?」
「たった今言った通りさ。テメェの意見も尊重するってな。さぁ、言え。どうやって殺してほしい?」
ロイドが何を考えているのか、ランツァにはわからなかった。
既に勝負は決していたのだ。それをわざわざ無駄にして、敵にチャンスを与え、自らの命を危険に曝す。
正気の沙汰ではない。
だが、ランツァにとっては願ってもいないことでもある。
こんなチャンスを、逃すわけにはいかない。
少なくとも先程とは違い、今は動くことができる。
ロイドの魔の手から、仲間も連れて逃げ出せるかもしれない。
ただし、今もウィリアム達はロイドに動きを封じられているため、ランツァが彼らを抱えてでも逃げる必要があるわけだが。
でも、十分だった。
少しだけでも、生き延びられる可能性があるのなら。
とはいえ、ロイドが素直に逃してくれるはずがない。
ここから逃げ出すには、どう足掻いてもロイドに隙を作らせるしかなかった。
(やってやる……!)
加速を称するレギオンの王――ロイドに真正面から挑むことを決意するランツァ。
「俺は――」
考えをまとめ、漸くロイドの質問にランツァは答える。
「俺は、お前を倒す!! それで終いだ!」