第百八十八話 謎の黒い影
ほんの少しだけ、時は遡る――。
薄暗い一室の窓辺に、ロイドは腰掛けていた。光源は三日月のみである。
「そろそろだな……」
小声で独り言を呟くロイド。
だが、心の中は狂気に満ちた喜びで溢れていた。
「漸く、奴らを殺せる……」
ロイドにとって殺戮衝動とは、本能そのものと言っていい。それほどまでに殺しを好み、この上なく闘いに餓えているのだ。
そして、その餓えは既に限界点を超えていた。
「もう、我慢ならねぇ……!」
抑えきれない欲望。
ロイドは静かに立ち上がり、舌舐めずりをする。
「待っていろ、小僧共。今行く!!」
牢屋の所へ向かおうと、ロイドが一歩踏み出した瞬間だった。
凄まじい爆音が、地下の方から聞こえてきたのだ。
「ほう……」
即座にロイドは思考を巡らせ、今何が起きているのかを推測する。
(脱走か……? いや、それにしては派手すぎる。だとすると――)
罠である可能性が高い。
それが、ロイドの考えだった。
「小賢しい真似を……。まあいい。少しは楽しめそうだ」
不敵な笑みを浮かべながら、ロイドは牢屋へ向かうべく歩を進める。
この時、ロイドは気づいていなかった。
――いや、気づけなかった。
室内にある鏡の前を通った後、ロイドに続いて黒い影が鏡に映っていたことに――。
そこには『存在するはずのない何か』であるからこそ、ロイドは気づけなかったのだ。
この黒い影の正体は、一体何なのだろうか。
その答えは、間もなく明らかになる。