第百八十四話 逃走
「フフフフ……」
不気味な笑い声を漏らすのは、加速を称するレギオンの王――アクセラ・ロイドだ。
実力は未知数と言えど、レギオンの王。数多の悪魔を統べる化け物を前にしたランツァ達は、誰一人例外なく恐怖に怯えていた。
(どうする……!?)
それでも、諦めずにランツァは模索し続けようとした。
この窮地から免れる手段を――。
だが、そんな手段はない。
あるのは、絶望だけ……。
そうランツァが考えてしまう原因は、垂れ流されているロイドの禍々しい力にある。
「あまり警戒するなよ……。俺様は、テメェらにちょっと聞きてえことがあるだけなんだよ……」
常に口角を吊り上げ、不気味な表情のまま話し続けるロイド。
「テメェら、アンゲルスの奴らだろ? ここで何してやがる?」
「…………」
ロイドの質問には、誰も答えなかった。
ランツァ達は悪魔側から何かしらの情報を得ようとしているのだ。そのことを、わざわざ敵に教える必要などない。
当然と言えば、当然のことである。
しかし、無言という対応は逆に敵の警戒心を生む。
その対応は悪手だとランツァが気づいた時には、もう遅かった。
「まあいい。答える気がねえなら、俺様が無理矢理にでも聞き出してやるからよ」
ロイドの言葉を耳にして、まず最初に思い浮かんだものは――拷問。
無論、その先に待ち受けているのは、死だ。
最悪の場合、こちらの情報を敵に渡してしまうかもしれない。
それだけは、何としてでも避けねばならない。
キリエやレリア、仲間の皆を危険に曝すわけにはいかないからだ。
とるべき行動は――一つ。
「逃げるぞ!!」
ランツァの一言で、皆がロイドに背を向け走り出した。
みっともない。そう思うかもしれない。
だが、ランツァ達にはこうする他に生き延びる術がない。
死んでしまっては元も子もないからこそ、ランツァは逃げることを選んだのだ。
(生きていれば、また……)
一瞬、仲間達の顔がランツァの脳裏を過った。
その時、フィンガースナップの音が鳴り響いた。
音のした後方へランツァが走りながら視線を向けると、音を鳴らしたであろうロイドが不敵な笑みを浮かべていた。
そして、ゆっくりとロイドの口が開く――。
「加速空間」