第百八十一話 一日千秋の思い
「まったく……。一人で勝手に決めるなよ……」
と、文句を言ったのはウィリアムだ。
彼が少々怒っている原因は、ランツァが勝手にアザルドへ行くことを約束してしまったためである。
決して、ランツァ一人がアザルドへ行くわけではない。ウィリアムも共に行くため、ランツァは謝罪の意を述べる。
「悪いな……」
「ま、致命的な問題ではないとは思うけどな。いつかは奴らと闘うことになるわけだし……」
そうウィリアムは言ったが、彼一人だけが悪魔達と闘うことになるだろうと予測しているわけではない。皆、同じことを考えているのだ。
その中の一人――キリエが皆を元気づけようとする。
「先のことを考えていても仕方ないわ。まずはアンゲルスの天使達に認めてもらえるよう、ランツァ、ウィリアム頑張って!」
「ああ!」
「最高の情報を持ち帰ってやるよ!」
ランツァとウィリアムの瞳に、力が漲る。
それは、必ず皆に認めてもらえるよう活躍してみせると、強く決心しているかのようだった。
その時――
「俺達を忘れてもらっちゃあ困るぜ!」
ランツァ達の背後から、ガルメラの声が聞こえた。
振り返るとランツァ、ウィリアムと共にアザルドへ行く残りの二名――ガルメラとジェネスの姿がそこにあった。
「お前ら!」
喜びの声を上げるランツァ。
一緒に行くことになるだろうと思ってはいても、やはり頼りになる仲間がいてくれることは嬉しいことこの上ないのだ。
できればキリエ、レリア、エレシス、アキにも一緒に来てもらいたいのだが、ランツァ達四人でアザルド行くという条件があるため、残念ながらそれはできない。
(でも、俺達だけでも大丈夫だよな……?)
全く不安がないと言えば嘘になるが、ランツァは皆を信じ、必ず全員で帰って来ると心に誓った。
「それじゃあ――」
と、キリエは言いながら魔法陣のようなものを床に浮かべ、アザルドに繋がる赤き扉を生成する。
「絶対に、無茶だけはしないで」
これだけは守ってほしい。
ランツァ達の無事を願うキリエは、ただただそう思うだけだった。
そして、その想いは誰一人例外なく伝わっていた。
「行ってくるよ、キリエ」
ランツァが最後に親指を立てて、彼ら四名は闇の世界に足を踏み入れ、姿を消していった。
「必ず、生きて帰って来てね……」
ぎゅっと両手を胸の前で握りしめ、キリエは彼らの帰りを待ち続ける。
「大丈夫。皆、強いんだから」
レリアは心から彼らの実力を信頼し、キリエと共に帰りを待ち続けるのであった。