第百七十八話 不気味な男
「着いたか……」
アザルドに存在しているティナの城を眺めながら、謎の男が呟いていた。
紫色の髪と、同色を基調とした貴族服。加えて真紅のサングラスといった容姿は、不気味さを感じさせる。
その男に気がついた門番は、目を大きく開いて震える声で言う。
「ロイド……様……」
明らかな恐怖と驚愕が混じった声音だった。
そんな門番の様子を楽しんでいるかのように、ロイドと呼ばれた男は不敵な笑みを浮かべながらその門番に近寄る。
「おい」
と、ロイドが門番に話しかけようとするだけでも、門番は悲鳴を上げそうになりながら後退る。
それもまた、ロイドは滑稽だと言わんばかりにニヤニヤと笑っている。
しかし、ロイドの笑みはすぐに消え失せた。
怯えている門番と違って、傍にいるもう一人の門番は怯えていないように見えたからだ。
「何か、ご用ですか……?」
声が震えてしまうのを堪えながら淡々と問う門番。
気丈な振る舞いを見せるその門番に苛立ちを覚えたロイドは、小さく舌打ちをする。
「ティナに用がある。今すぐ会わせろ」
「ティナ様に、ですか……?」
ロイドの言葉が予想外だったのか、気丈な門番は驚きを隠せずにいた。
「ティナ様は今ここにはいらっしゃらないのですが……」
「何ィ?」
今度は逆に、ロイドの方が門番の言葉に意表を突かれる。
だが、ロイドはその心中をあまり表に出すことはなかった。
「だったら今、ティナはどこにいる?」
妙にドスの利いた声で尋ねるロイド。
それでも門番はできる限り恐怖を抑えつけながら返答する。
「おそらく、今は人間の世界にいらっしゃるかと……」
「人間の世界だと?」
ほんの少しだけ間が空いた後――
「フ……フフフフ…………」
ロイドは何かを抑え込むかのように掌で顔を隠しながら、歯を剥き出しにして笑う。
それと同時に、悪に満ちたロイドの力が垂れ流される。
周囲にいた二人の門番は、あまりに膨大で禍々しいロイドの力によって正気を保つことすら難しい状況にまで陥っていた。
そんな彼らを心配する気持ちなど微塵も感じられないロイドは、心底楽しそうにこう呟くのである。
「ティナ……これからお前が何をするのか、少し興味が出てきたぞ」