第百七十四話 超剛速球
九月十八日、放課後。
学校の授業が終わり、ランツァ達五名は八高対抗戦に向けてフェルムボールの練習をしていた。
五名というのはランツァ、キリエ、ウィリアム、レリア、ティナのこと。
体育館は他の競技練習に使用されているため、彼らはグラウンドで練習中なのだった。
そんな中で一番足を引っ張っている者に、ウィリアムは妙にニヤニヤしながら文句を言う。
「ランツァしっかりボール取れよぉ」
「これでも頑張ってんだよ」
そう言いながら、落ちているボールを拾うランツァ。
――畜生……。俺にだけ本気で投げやがって……。
当然のことだが、普通の人間だと思っているティナに向かって、ウィリアムが本気で投げるはずがない。
しかし、他二名は別のはずだ。
キリエとレリアは、正真正銘の天使。この二人になら、本気で投げても不思議はないのだが……。
実際は、違ったのだ。
明らかにウィリアムはランツァにだけ本気で投げている。
(この俺と、勝負しようってのか……?)
密かに、心の中でランツァはそう思った。
もし本当にそうなら勝負して、この際どっちが強いのか、はっきりさせるのに興味がないわけではない。
しかし、勝負するための明確な理由がないのだ。
理由もないのに、勝負することに意味があるのだろうか?
それに、優劣をはっきりさせたところで、今までと何も変わりはしないだろう。
(ま……、お遊びでやってるだけだろうな。仕方ない……)
深く、ランツァは呼吸をする。
「やられっぱなしってのは、性に合わないんだよな」
力強く、ボールを握り締めるランツァ。
「え……?」
それを見たウィリアムの顔に、冷や汗がたらり――。
「受け取れエエエエエエエエエエエエエエエエェェェェ!!」
超剛速球。
恐ろしいほどのスピードで、ウィリアムに襲いかかるボール。
「フッ……」
だが、ウィリアムは一瞬で落ち着き払い、ボールを受け止めるために右手を前に出す。
「人体強化――」
その一言で、ウィリアムの力が完全に解放される。
外見にほとんど変わりはないが、超人的な力をウィリアムは手に入れたのだ。
そして、その力を使ってウィリアムはボールを右手のみで受け止めようとする。
その時だった。
ランツァの放ったボールが、ウィリアムの目前で減速したのだ。
普通の人間にはわからないようにほんの一瞬だけの、凄まじいマイナス方面への補助によって――。
おかげで、ウィリアムは何の問題もなく、ボールを受け止めたが……。
「あんた達~……!」
ボールに生じた超常現象を引き起こした張本人であるレリアが、もの凄く怒っていた。
何に対して怒っているのかは、お察しの通り。
あまり派手にやると、正体がバレてしまうということである。
一方、キリエはとても可愛らしい笑顔なのだが――
「練習が終わったら、話し合わないとね」
その方が、逆に恐い。
「はい……」
ランツァとウィリアムが、同時に震える声で応えた。
そんな彼らの会話を、ティナは少し困ったような顔をして聞いていた。
何も理解できていないフリをするために。