第百七十一話 届かぬ言葉
ある命令をティナから授かったヴァルナス。
その命令とは、アグウィスへの復讐について、フレディという者に伝えることである。
破壊のレギオン全てを、復讐に注ぎ込むということを――。
「あいつはあまり好きじゃねえが……」
ティナの命令を拒むような表情を浮かべるヴァルナス。
そんなヴァルナスが命令に背かないように、ティナは彼を納得させようとする。
「好きじゃなくても、フレディの協力なくして復讐を果たせるとは思えないわ……」
「確かに、あいつの強さは化物クラスだからな……」
少しして、ヴァルナスが溜め息を吐いた。、
「わかったよ。アザルドに行ってくる」
ヴァルナスはそう言うと、目の前に掌をかざし、床の上に魔法陣のようなものを出現させる。
さらに、そこから赤き扉が作り出される。
その赤き扉は、人間達の住む世界と悪魔達の住む世界を一時的に繋ぐためのもの。
つまり、その扉を通り抜けた先には、闇の世界が広がっているということである。
ヴァルナスはその闇の世界――アザルドへ行こうとしているのだ。
「またな」
最後にヴァルナスはそう言い残して、扉の中に入っていく。
同時に彼の姿は見えなくなり、その後すぐに扉が消え、魔法陣のようなものも消滅した。
「いってらっしゃい、ヴァルナス」
ティナのその言葉が、ヴァルナスに届くことはなかった。