第百六十九話 遡る時
時は一週間遡る――。
九月十八日、ランツァ達の学校での出来事だった。
「キリエ、ちょっと話したいことが……」
そうキリエに話かけたのはレリアだ。校内の生徒達が昼食を買うために売店へと足を運んでいる時、彼女ら二人は教室の窓際にいた。
「わかってるわよ。そろそろじゃないかな~って思ってたところ」
キリエは何かに対して悩んでいるような表情で、窓の外を眺めながら答えた。別に何かを見ているわけではないが。
「わかってるんだったら、なんで何もしないの?」
少し怒っている顔で、レリアは問いかけた。
しかし、
「何もしないわけじゃない。何もできないのよ……」
返ってきた言葉には、活き活きとしたキリエらしさが欠片ほども宿ってはいなかった。
「私一人だけが意見したところで、彼らは何も認めてくれない。今では二番目かもしれないけど、そんなの関係ないのよ。それくらいレリア、あなただってわかるでしょう?」
「…………」
返す言葉もない。レリアも、ある事を理解できてしまっているのだ。
そんなレリアの心境を察したキリエは、非常に残念そうに呟く。
「仕方ないじゃない、今までにない出来事だし……。それに、彼らは元々敵だからね……」
「でも……それでも私は、彼らを仲間だと思ってる……」
彼らを仲間だと思う――だからこそ、これから先起こるであろう問題への不安感が強くなってしまっているのだ。
もし彼らを仲間だと認識していなければ、未来の心配をする必要など全くないのに。
「はぁ…………」
不安や悩みを全て吐き出すかのように、キリエは溜め息をついた。
「私だって、彼らを仲間だと思ってるわよ……。でもね、今の私達にできるのは、時の流れに身を任せるだけ――」
そして最後に、キリエは一言付け加える。
「有事の際には、裏切るだけよ」