第百六十七話 置き手紙
「わたくしは、破壊のレギオンを率いる王なの……」
すごく落ち込んだ声色で、ティナは理由を話しだした。
なぜティナが落ち込んでいるのか、ランツァ達にはわからない。だが、一つだけ言えることがある。
「破壊のレギオンを率いる王は、ディレ・ディオスだろ?」
破壊のレギオンは、別名ディレ・ディオスと呼ばれている。レギオンの別名は、王の名が由来であるとキリエに教えてもらったことがあるため、ティナの言葉に矛盾を感じたのだ。
「ディオス様は…………」
ランツァの問いかけに、ティナは返答しなかった。
――いや、返答したくなかった、というべきか。
ティナの表情はとても重く、暗い。何かに追われ、悩まされ、苦しんでいるように見えるのだ。
そんな彼女の想いを悟って、
「王よ、ここは我々に任せてはくれぬか?」
大剣の男――エストが、ティナの代わりに話す意志を示した。
「ありがとう」
ティナはただそれだけを言って、少し離れた所で座り込む。視線を床に向けているため表情は見えないが、ティナが何かを苦しんでいるのはわかる。
その何かを、エストが明らかにする。
「かつての王、ディレ・ディオスは死んだ」
「え…………?」
その一言は、アンゲルス全員の度肝を抜いた。
天使や悪魔にだって寿命はあるが、流石に王が死んだとなれば驚かないわけがないのだ。
――そうか。ティナは、王の死を嘆いているのか。
ランツァがそう考えていた時、さらにエストが途轍もないことを口にする。
「――いや、正確には『殺された』と、言うべきか」
「ころ……され……!?」
「信じられない、そう言いたいのだろう? 我々も同じだ。王の中でも頂点に君臨しているかもしれないと言われている我らの王が、殺されたのだからな」
「一体、誰に……? まさか、ソールなのか!?」
「違う。我らの王を殺したのは――」
王を殺した者の名を、エストが告げようとしたその時だった。
「アグウィス!」
ウィリアムが、立ち上がっていたのだ。
「ったく……。俺が気絶してる間に、こんなことになりやがってよ……」
そんな彼を見て、アンゲルスの者達全員が嬉し涙を目尻に浮かべていた。
「これで、全員復活ね」
心からの、レリアの言葉。
「ああ!」
ランツァの瞳には、光が宿る。
「で、ウィリアムが言った最強の悪魔――アグウィスなのか?」
ウィリアムがその名を言い放った時、既にランツァは予想していた。
王を殺したのは、アグウィスではないのか、と――。
「……正解だ」
そしてその予想は、エストの返答により確信へと変わる。
「なるほどな……。それに、手を組めってことは……つまるところ、復讐か」
「……ああ。奴の実力が凄まじいことは知っている。それ故に、少しでも戦力が欲しいのだ」
「じゃあ、アンゲルスのためにもなるってのは、どういう意味だ?」
「……王の死体の傍に、アグウィスの置き手紙があってな……。それには、こう書かれていたのだ」
ゆっくりと、エストの人差し指がある者を指す。
「次の獲物は、アンゲルス所属のジェネス――」
エストの人差し指は、冷たく、ジェネスに死を告げるようなものだった。