第十六話 天使
暫くして、ランツァの背後に一人の少女が現れた。
そして、彼女は話しかける。
「辛いわよね、友達がさらわれて……」
ランツァは、彼女を睨んでいた。
真っ赤に充血した目で。
「…………」
彼女は何を話したらいいか、わからなくなってしまった。
「クソ……」
ランツァはただそう言っていた。
なぜなら、その少女は彼を忠告していた張本人なのだから。
つまり、彼女も彼と同じ高校二年生。だが、年齢は十六歳。誕生日は十二月二十五日。なんて、説明している状況ではないのだろうが……。
そして、赤いショートヘアに赤い瞳の彼女は言った。
「私も手伝ってあげようか?」
はっ、という感じで振り返るランツァ。
でも、彼自身わかっているはずだった。
無理だと。
ただの人間には。
だが、
「私さ、実は天使なんだ」
驚きのあまり、目を丸くするランツァ。
「それで、さらに言うとね、『アンゲルス』っていう組織に属しているの。名前は知っていると思うけど、一応フルネームを名乗っておくね。名前はキリエ・フォーテュン」
「…………」
彼は言葉を失った。
「詳しく知りたいだろうけど、選択するなら早くね。じゃないと、間に合わないかもしれないから」
少しだけ間が空く。
だが、彼にはこう答えるしかなかった。
知識に乏しい彼は。
「頼む、あいつを助けるのを手伝ってくれ」
「うん」
彼女は意外に明るく、そして即答だった。
この先おそらく、彼女は彼にとって重要な存在になるのかもしれない。
「それじゃあ、早速開けるね。アザルドへの扉を」
そう言うと、目の前に魔方陣みたいなのが出てきて、さらにそこから真っ赤な扉が出てきた。
「準備オッケー?」
「ああ」
こうして、二人はウィリアムを助けるために地獄の門を通ったのだった。
果たして、その先には何が待ち構えているのだろうか――?