第百六十四話 意想外
火、水、氷、雷、地、風、光、闇、滅、生、吸、無。これら十二の属性それぞれの必殺技、十二奥義。
その一つ、氷属性の奥義、氷龍砲。
この奥義は、龍のシルエットをした絶大なる氷の力が解き放たれ、あらゆる存在を呑み込み、凍てつかせ、冥界へと誘う。
氷の技の中で頂点に立つ氷龍砲なら、相手が炎の悪魔でも凍りつかせられるかもしれない。
さらに、先程のように内側から氷を破られることもなく、永遠にヴァルナスを封じられるかもしれない。
つまり、うまくいけばアンゲルス側の大勝利となるのだ。
そう考えると、エレシスは重大な役目を背負っていることになる。
自分達の勝利。そして、仲間の命も――。
しかし、エレシスは決してネガティブなことを考えなかった。
ただ己の力を信じ、ヴァルナスに挑む。
「氷龍砲――!!」
遂に、氷の龍がエレシスの右手から解き放たれた。
その龍から溢れ出る氷の力は、周囲を凍てつかせてしまうくらいに気温を下げる。
それほどの力を目にし、肌で感じたヴァルナスが歯を剥き出しにして笑みを浮かべる。
「最高じゃねえか……!」
ヴァルナスの纏っている炎が、爆発の如く燃え盛る。
同時に、禍々しい悪魔の力も増大していた。
どうやら氷龍砲に正面からぶつかり、力のみで制するつもりらしい。ヴァルナスの右手もまた、凄まじい炎の力が纏わりついていたのだ。
そう思った時、エレシスの背を悪寒が走った。
それは、ヴァルナスに対する恐れだった。
あの右手に潜む力は、途轍もないものだと悟ってしまったが故に。
そして、その右手に潜む力が今、氷龍砲と衝突しようとしていた。
「エクス――」
ぎりぎりまで氷龍砲を引きつけ、ヴァルナスの目の前まで迫る。
渾身の力を宿したヴァルナスの右拳が氷龍砲と衝突し、再び水蒸気爆発を引き起こすかと思われたその時だった。
二つの絶大なる力の間に、何者かが割って入ったのだ。
そして、一瞬にして両者の力を粉砕してみせた、巨大な鎌。同時に凄まじい爆風が生じ、さらに霧までもが周囲に撒き散らされて視界が悪くなる。
「もう十分よ」
何者かが、霧の中でそう告げた。
もう闘う必要はない、と――。
「まさか……」
キリエは愕然とする。霧の中にいる何者かの声に、聞き覚えがあるのだ。
いや、間違いない。彼女の声だ。
彼女の名前は――
「ティナ……!?」
悪魔であり、敵でもあるティナ・グレース。
霧が徐々に晴れてきて、その姿が明らかになる。右手には、巨大な鎌が握られている。
「キリエ、話があるの」
キリエはまだ知らない。
この先に待ち受けている、過酷な運命を。