第百六十一話 絆
「まったく……」
キリエが安堵の息を吐きながら、少し呆れたように呟いていた。
「何が『助けに来ましたよ』よ。格好つけちゃって……」
しかし、呆れているようでありながら、嬉しそうでもあった。
自分のことを心から心配してくれる仲間がいる。それだけで、とても幸せな気分になれるのだ。
己の命を仲間のためだけに賭ける、その優しさ。
そんな仲間の心に、キリエは胸が熱くなるのを感じていたのだ。
これが、今のアンゲルス。
新たに悪魔や人間が入っていても、絆の強さはどんな組織にも劣らない。
キリエは、そう信じている。
そしてその絆は、悪を必ず打ち負かすとも信じているのだ。
ヴァルナスも大剣を背負う男もティナも、全員倒してアンゲルスの皆で生き残る。それが可能だと、信じているのだ。
「エレシス、ガルメラ、ジェネス、いくわよ。残りの二人も倒して、この闘いをさっさと終わらせるの」
力強いキリエの言葉。
名を呼ばれた三人は、呼ばれた順番に返答する。
「それが一番ですね」
「ああ!」
「わかった」
直後、キリエ達四人で二人の悪魔に襲いかかろうとした時。
「待ってくれ」
赤髪の男――ルークの声が遮った。
「俺に、やらせてくれないか?」
ルークのその瞳には、紛れもない怒りが宿っていた。
「仇を……討ちたいんだ」
「仇…………」
すぐにキリエは悟った。
ルークの仲間である金髪の男が、既にこの世を去っていることを。
死に追いやったのはヴァルナスだが、おそらくヴァルナスとはもう闘えない。そう考えて、ルークはヴァルナスの仲間に憎悪の念をぶつけようとしているのだ。
「……まあいい。勝手にやらせてもらう」
ルークはそう言い残し、ティナ達を睨めつける。
一歩、また一歩と、ティナ達の死のカウントダウンを刻むかのように、歩を進めるルーク。
その時、大剣を背負う男が何かを独り言のように呟く。
「……手を出すな、か。奴らしいな」
苦笑を浮かべる男。その直後だった。
突然、広範囲を巻き込む大爆発が生じたのだった。