第百五十九話 凍てつく炎
俺は、何をやってるんだ……?
ヴァルナスが仮の姿だった時でさえ、全く歯が立たなかった。力の差は明らか。住む世界が違いすぎる。
それをわかっているのに。恐怖で立ち向かえるわけないのに。
無駄で、愚かで、得られるものなんて、何もありはしないのに。
なのになぜ、俺はあいつを助けようとしているんだ!?
助けたところで、もうあいつは死から逃れられない。それもわかっているのに――。
それでも、助けようとせずにはいられないんだ!
(……馬鹿だな、俺……)
ヴァルナスに襲いかかるほんの一瞬で、多くの事を思っていたルーク。
そして最後に、
(俺は、お前と一緒に行くからな……。それと、皆――)
ルークは、胸の内で密かにある事を告げる。
(ここで、お別れだ)
死を受け入れる。そう、ルークは密かに告げたのだ。
怒りに任せて、ヴァルナスを一度だけでもぶっ飛ばす。それができればベストだ。
そんな思いを抱えて、ルークは拳を振り上げる。
対するヴァルナスは、楽しげに口の端を吊り上げている。
憤怒と高揚。その二つが衝突する直前。
膨大な氷の力が、ヴァルナスを呑み込んだ。
「――――ッ!!」
すぐ目の前を通り過ぎたその力に、ルークは愕然とし、息を呑んでいた。
「炎の悪魔を……凍らせた……!?」
そう。ヴァルナスは炎を使役する悪魔。
突如現れた氷の力は、ヴァルナスが纏っている炎ごと凍りつかせたのだ。
その光景を見て、キリエは直感する。
「この力は……!」
「随分なやられようじゃねえか、キリエ」
天井から穴を開けて、派手に飛び降りてきた者。
「ガルメラ!」
悪魔の姿をしたその者の名を、キリエが驚きながら言った。
「仕方がないじゃないか。敵が強いんだからさ」
体育館の入り口から堂々と入ってくる者。
「ジェネスも来てくれたのね!」
アンゲルス所属の悪魔二名が、仲間の危機を知って駆けつけてきたのだ。
そして、もう一人――
「助けに来ましたよ、先輩」
氷の力で破壊した壁の穴から入ってきたアンゲルス所属の大天使、エレシスがいた。