第百五十七話 紅蓮の悪魔
「真の姿……!?」
キリエは、ヴァルナスの台詞に対する驚きを隠せなかった。
その台詞は、今のヴァルナスが悪魔の本当の姿ではないことを意味する。つまり、ヴァルナスは実力の大半を抑え込んでいるのだ。
「そうだ。俺は人の姿を捨てた悪魔さ。てめえの仲間にも、人の姿を捨てた悪魔がいるんじゃねえのか?」
その時、キリエの脳裏をガルメラの二つの姿が過ぎる。
一つは、鋭く長い爪をもつ悪魔の姿。
もう一方は、赤い短髪を逆立てている高校生の姿。
ガルメラもヴァルナスと同じ、人の姿を捨てた悪魔なのだ。
「そういえば、前にこの仮の姿を解いたのはいつだったか……」
独り言のように呟くヴァルナス。
「まあいい。何にしろ、久々の真の姿を拝めるてめえらは運がいい。いいか、てめえら。気を抜くな。俺だけに集中しろ。他の奴らなんか気にするな。俺とてめえらだけの、『殺し合い』だ!!」
ヴァルナスがそう叫んだ直後。
彼を中心に、凄まじい爆発が生じた。
撒き散らされた炎は体育館を焼き、爆風は容赦なしにキリエ達を襲った。
そのような状況下でありながらも、キリエは爆風に逆らうようにして前を見据える。
「何……これ……!?」
大気が、歪んでいる。
爆発による熱量、そして、爆発の中心部から発せられる邪悪で絶大な力の奔流。
その二つが、この異常な現象を引き起こしてしまっているのだ。
即ち、原因はヴァルナス。
その姿が、炎の中から現れる。
真っ赤な肌、額から突き出た二本の角。その身をオレンジ色の炎が包み込んでいるが、頭には血のように赤い、少し長めの髪が生えている。歯は全てが犬歯の如く鋭くなり、目は闇に染められ、瞳のみが金色と化している。
――炎を司る鬼。
その言葉が、最も相応しい。
「最初に死ぬのは、誰かな?」
ヴァルナスが引き裂くような笑みを浮かべながら、発した台詞。
まだそうなると決まったわけでもないのに、その台詞は誰かが必ず死ぬという未来を告げているようだった。
――まるで、運命を告げるかのようだった。
そのせいか、キリエ達の背を悪寒が走る。
頬を、嫌な汗が伝う。
これは炎による暑さのせいだけではない。自分が死ぬかもしれないという、この状況。そして、自分が死ねば、次は仲間の命が危険だということ。
それを理解しているからこそ、途轍もないプレッシャーが彼女らを蝕んでいるのだ。
――絶対に勝たなくてはならない闘い。
しかし、敵との力量差は明らか。何人いようが、間違いなくキリエ達の方が弱い。
それがまた、彼女らを苦しめる。
でも、それでも――
「誰も……死なせない!」
勝つ以外に、道はない。