第百五十四話 絶望
「ったくよォ……」
ヴァルナスが、悲しみに暮れているランツァに近寄る。
そのことに、ランツァは気づかない。ただ涙を流し、担任の亡き骸を見つめていた。
しかし、キリエは違った。
担任の死を悲しんではいるが、紛れもないヴァルナスの殺意には気づいていた。
そしてヴァルナスは、そんなキリエには気づいていなかった。
「ゴミが死んだくらいで、うるせえんだよ……」
ヴァルナスが、ランツァの前で拳を振り上げる。
それを見て、キリエが咄嗟に彼らの間へと割って入ろうとする。
「ランツァッ!!」
だが、遅い。
間に合わない。
ヴァルナスの拳が、ランツァを襲う。為す術もなくランツァは吹き飛ばされ、体育館の壁を突き破ってさらに数メートルの所で漸く止まった。
ランツァは、起き上がらない。
ヴァルナスの拳の破壊力を、その強さを知っているが故に、キリエは絶望していた。
――全員、ここで殺される。
死。
ただその言葉だけが、キリエの脳内を駆け巡っていた。
希望などない。
奇跡など、起こるはずがない。
だけど、
「レリア……。ランツァを、任せるから……」
このまま、何もせずに殺されるわけにはいかない。
「私は、ティナ達を倒す!」
はっきりと、キリエがそう言い放った。
レリアは何も言わずに頷き、ランツァの所へと移動する。
その時、誰かが小さな声で呟く。
「俺達も、手を貸そうか?」
だが、その小さな声は妙に響いていた。
キリエは自分達にとって吉か凶か、その曖昧な言葉を発した者へと視線を向ける。
すぐに、その者と視線が合った。
紫色の髪を逆立て、黄色の瞳は刃物のような鋭さを感じさせる。
その者の名は――
「天使よりも先に、悪魔を滅ぼせ。それが、俺達のやり方だからな」
コフィ・モールス。