第百五十三話 涙
赤い。
妙にぬるぬるしていて、とても赤い液体。
ランツァの全身に飛び散ったそれは、ある事実だけを告げる。
――どうして、ここから逃げてくれなかったんだ。
――どうして、逃げてくれと、もっと強く言えなかったんだ。
――どうして、目の前の人すら、護れないんだ。
後悔しても、もう遅い。
残酷な現実は、誰にも変えられない。
「先……生……」
ランツァは倒れてきた担任を受け止め、床に寝かせる。
担任の表情は、微笑んだまま。
その顔を見て、ランツァは思わず涙を浮かべていた。
「なんで……息してないんだよ……」
返答はない。
いや――あるはずがない。それはわかっていた。
だけど、受け入れられない。認めたくない。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!!」
悲しい心が、ランツァを叫ばせる。
キリエ、レリアも同じ気持ちだった。
彼女らも、泣いていたのだ。
例外なのは悪魔達と、決勝戦の相手チームの者達だけ。
彼らはただ、眼前の事象を見ているだけだった。
即ち、死者を――。
「邪魔者は全て消す……」
先ほど言った言葉を、ティナが繰り返した。
そう、殺したのだ。
悪魔であるティナが、人間である己の担任を殺したのだ。
ランツァ達の担任は、もういない――――。