第百五十一話 招かれざる者達
「いい考えだぁ……?」
赤髪の男が、ティナに対して怒りをぶつけていた。本人は意識しているのかどうかわからないが、口調も表情も、まるで別人のようだ。
だが、ティナは臆することなく、そして赤髪の男を挑発するかのように、一歩前へと進む。
対する赤髪の男が、吠える。
「面白い、やってみろよオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
赤髪の男がボールを持つ右手を、高く振り上げる。
ボールがティナ目掛けて投擲されようとした、その時。
ランツァ達にとって、致命的な事件が起きた――。
突如、ランツァ達から見て右の壁が轟音をたてながら、崩壊したのだ。同時に、ものすごい量の煙が発生していた。
爆発。
その表現が最もふさわしい。そう、誰もが思った。
そしてそれが、赤髪の男の動きをも封じていたのだった。
「………………」
暫くの間、沈黙が流れる。
決勝戦を見ていた観客達も、その予想外の出来事に目を見張る。
ランツァもまた、息を呑んで注視していた。
煙の中から、誰かが落ち着いた口調で言う。
「ふう~。もう待ってられねえぜ、ティナさんよォ」
続いて別の者の声が、煙の中から発せられる。
「派手に暴れよって……」
それから少し遅れて、遂に煙の中からその二人が姿を現す。
一人は、大剣を背負っている男。赤いコートを身に纏い、黒のシルクハットをかぶっている。顎には少しだけ髭があり、外見だけで考えると年齢は四十代か。
そして、もう一人は――恐ろしいほど筋骨隆々で、動物の毛皮で作られた服を着ている大男。年齢は三十代に見える。
そう。彼の名は――――
(ヴァルナス!?)
キリエが、筋骨隆々の男の名を思い出して絶句していた。
体全身がブルブルと震え、右手で己の左腕を強く抑えていた。
かつて、ヴァルナスに殴られた左腕を。
そんな彼女に気がついたランツァが、
「おい、大丈夫か!?」
不安そうに、正体不明の二人の男を警戒しながら言った。
キリエはランツァに心配かけまいと、すぐに平静を装う。
「大丈夫……」
しかし、その言葉は嘘であると、ランツァでも瞬時にわかった。
何かがある。キリエと、正体不明の二人との関係に。
そう、思ったのだ。
そんなランツァの少し間違った思考に誰が気づくわけでもなく、
「まったく……」
そんな時、溜め息とともにティナが呟いていた。
「もう少しだけ、この余興を楽しみたかったのに……」
とても残念そうに、顔を下に向けるティナ。
ランツァも、ティナと同じように少し残念に思っていた。
わけのわからない奴らに邪魔をされて、怒りも感じていた。
だが、
「余興……?」
レリアだけは、ティナの言葉に違和感を覚えていたのだった。
――余興。
それはおそらく、この決勝戦のことを言っているのだろう。
しかし、だとすればこの決勝戦はただのお遊びということになる。そして、他に大事な出来事があり、それが起ころうとしているということにもなる。
一体、ティナは何を言っているの……?
そうレリアが思った矢先だった。
「おい…………これは一体、何なんだ!?」
ランツァが、怒りを露わにしながら言い放ったのだ。
「…………」
その怒りの原因である正体不明の二人は、無言でランツァを睨みつける。
そして意外なことに、ティナがランツァの問いかけに答える。
「いい加減、気づいていると思うけど? わたくし達は、あなた達の敵――」
ティナの瞳が、何よりも冷たくなっていた。
「つまり、悪魔よ」
ランツァ、キリエ、レリア三人の中で、時が止まった――。