第百五十話 制する者
「覚悟、ねぇ」
外野の金髪の男からボールを受け取りながら、赤髪の男は嘲笑していた。
「別に俺は、負ける気なんか全くしないんだがな……」
赤髪の男の口調からは、その言葉が嘘ではないという事がはっきりと伝わってくる。
本当に、自信に満ち溢れているのだ。
それは、ランツァ達が本気を出せないと思っているからなのか。
――翼の力を、発揮できないと確信しているからなのか。
しかし、それは間違いだった。
「ごめん、皆」
唐突に、ランツァが小さな声で呟いた。
「ランツァ……?」
そんな彼を、訝しげに見つめるキリエ。
「絶対って、言ったばかりなのにな……。俺はもう、我慢できないや……」
ランツァの声の震えが、徐々に大きくなっていく。
そして、ランツァは赤髪の男達を睨みつけ、力強く言い放つ。
「お前らだけは、絶対に許さねえ」
直後、ランツァから膨大な力が溢れだした。
それは、数少ない大天使をも超える力。
今はまだ翼の力を解き放ってはいないが、すぐにでもランツァは力を解放しようとしていた。
そんな彼を見て、驚愕しない者は一人もいなかった。
その時、
「待って」
以外にも、ティナがランツァを止めようとした。
今度はランツァが驚く番だった。
おそらくティナは、ランツァが放っている力の正体を知らないだろうし、感じ取ることもできないだろう。
それ故に、このタイミングでティナがとった行動は、少し不思議でならなかったのだ。
「私に、いい考えがあるの」
「ティナ……無茶だ。やめろ」
「大丈夫だから。私に任せて」
視線が交錯する。
ティナの瞳には、誰にも変えられない意志が宿っていた。
「…………」
言葉を失うランツァ。
不安で不安で仕方がないのに。
これ以上、仲間が傷つくのは耐えられないのに。
それなのに、ランツァはティナを止めることができなかった。