第百四十九話 激昂
「え…………?」
ほんの一瞬の出来事だった。
ランツァは眼前の事象を信じられなかった。――信じたくなかった。
赤髪の男が放ったボールが、ランツァの友――ウィリアムを強引に場外まで吹き飛ばしていたのだ。
自分達の正体が明らかになろうがなるまいが、関係ない。そう思わせるほど、無茶苦茶な力を赤髪の男は振るったのだ。
「あと三人……」
不敵な笑みを浮かべる赤髪の男。まるで、ランツァ達を挑発するかのように。
しかし、ランツァは赤髪の男を無視して、
「ウィリアムッ!!」
漸く状況を受け止め、不安を抱えながらウィリアムのもとへ駆け寄る。
「大丈夫か、ウィリアム? 俺の声が聞こえたら返事をしてくれ!」
「う…………。ランツァ、か……? 悪い、意識が朦朧として……」
ウィリアムが倒れた状態で少しだけ顔を上げ、かすれた声で応える。
だが、彼の目の焦点は定まっていなかった。
それに気づいたランツァは、胸に刺すような痛みを感じた。
「もう……無理にしゃべらなくていい。お前はゆっくり休め。後は俺達に任せていいから……」
「…………」
ウィリアムは応えなかった。
ランツァの言葉を理解できたのかどうかは、誰にもわからない。
しかし、そのどちらであっても、ランツァがこれからすることは変わらない。
「ウィリアムを……頼む」
ランツァのその台詞は、この状況を見て出てきた救護係の者達に向けられたもの。
救護係の者達は、迅速にウィリアムを連れて去っていく。
そして、ランツァが再び場内へと入り、
「おい、お前……」
赤髪の男を指差して言い放つ。
「覚悟はできてんだろうな」
その声は今までにないほど低く、言葉では言い表せないほどの怒りを感じさせたのだった。