第百四十八話 揺らがぬ瞳
「そろそろいいか?」
唐突に、赤髪の声が発せられた。
「あんたらが話し合っている間、俺はずっと待ってたんだぜ? 別に攻撃してもよかったんだが、それじゃあ面白くないからな」
赤髪のその一言一言には、妙な力が宿っていた。
天使や悪魔のものとは何かが違う、妙な力。それが、科学の力なのだろう。
ウィリアムからも同じような力を感じるが、力量には雲泥の差が存在している。無論、赤髪の男の方が上だ。
そして、その力量は悪魔の将軍を超えるかもしれないと言われている。
――それが、間解放。
それ程の力をもつ者が、今、目の前に立ちはだかっているのだ。
しかし、ランツァはそれでも決して負けを認めない。
「……さっさと攻撃すればよかったのにな……。もう俺達に隙はないぞ」
「ふん、強がりを……。翼なきあんたらに、一体何ができるっていうんだ? たとえ翼の力を解放し、俺に勝ったとしても、俺よりも強い奴がまだ控えているんだぜ?」
そう言いながら、赤髪の男は親指で背後にいる三名を指す。
それを見たランツァは、思わず唇を強く噛み締めていた。
――ああ、わかっている。
このままでは、絶対に勝てないことくらい……。
…………やるしかないのか?
翼の力を使えば、間違いなく正体がバレてしまう。そうまでして勝つ必要があるのか?
――いや、ない。
仲間や、何も知らない周囲の者達を巻き込むような事をしてまで、勝つ必要など全くない。
「キリエ……。悪い、ここは本気を出さずに勝負してくれないか?」
低く、ゆっくりとした小声でランツァは言った。
暫くして、キリエがランツァの考えを察し、溜め息をついた。
「仕方ないわね」
「すまないな……」
直後、彼らの会話を聞いていた赤髪の男が不機嫌そうな表情を浮かべて、
「正気か? まさか、あんたらが負けを素直に認めるとは思えないが……」
「誰が負けを認めるって言った?」
ランツァは挑発的な視線を赤髪の男に向けていた。
「俺達は絶対に負けない。翼の力には絶対に頼らない。今出せる全ての力で、お前らを負かしてみせる!」
ランツァの瞳は、決して揺らぐことはなかった。
ただ一つの事だけを見て、前へと進んでいく。それだけだった。
そんなランツァの心中を察し、赤髪の男はランツァが真剣に言っているのだと悟る。
「……正気か」
赤髪の男は苦笑を浮かべ、やがては気でも狂ったかのように、高らかに笑い出していた。
「それで構わないっていうなら、俺は全力であんたらを叩き潰すぜ!」
遂に、赤髪の男がランツァチームの誰かを狙い定め、ボールを放った。