第十四話 警告
やっと全ての授業が終わった。九月二日の授業が。
「はあ~、疲れた」
「はは、だな」
と、笑いながらウィリアムは言う。
「つ~か、暑いな……」
「気晴らしにでも、カラオケに行くか?」
そうするか、と答えるランツァ。
そして、ガタッと席から立ち上がると、とある女子が彼らの前を通ると同時に、妙なことを言ってきた。
「あまり夜遅くに出歩かない方がいい。今のあんたらは狙われているから。悪魔に」
特に最後の単語が気になった。
悪魔、だと? 一体、こいつは何者なんだ?
その女子が通り過ぎた後で、ウィリアムは言う。
ヒソヒソ声で。
「なあ、あいつひょっとして天使とかじゃないか? 何か悪魔とは違う感じだし。ま、あくまで俺の感だけど」
「……かもしれないな」
まあ、とウィリアムは言う。
「あんまり気にしても仕方ないけどさ。とりあえず、気晴らしに行こうぜ。カラオケに」
「そうだな……」
とは言いつつも、彼は不安だった。
彼女のことではなく。
あんたは狙われている、という言葉が。
でも、いつまでも気にしていたら限りがないな、と彼は思い、カラオケに行く。
そこでは、一時だけではあるが、不安を打ち消してくれる。
「やっぱ、カラオケは楽しいな」
「だろ? 提案した俺に感謝しろよ」
などと、調子に乗るウィリアム。
だが、ランツァは気にしない。本当に感謝しているのだから。
「次は、これだ」
といった感じで、歌いまくるランツァ。
対して、
「じゃあ、俺はこれだ」
と、ウィリアムも歌いまくる。
そんな感じで楽しんでいると、時間があっという間に過ぎていた。
「もう八時なのか……。ん?」
ふと、いやなことを思い出してしまう。
「まあ、気にするな」
それを察したウィリアムは、そう言ってくれた。
「そろそろ寮に戻るか。あんまり遅いと危ないし……」
「だな」
と、ウィリアムが同意したところで、彼らは料金を払い、寮に戻る。
だが、残り半分くらいの距離のところで、出会ってしまった。
悪魔と。
「こんばんは~」
愛想のよさは罠。そう、自分に言いつける。
そして、気付けば周りに人が全くいなかった。
ランツァとウィリアムと、悪魔しかいなかったのだ。
「早速で悪いが、君が私の仲間を殺したランツァ君かね?」
と、ランツァを指さして言う。
その姿は、全身黒ずくめで、さらに言うならば、肌も真っ黒だった。魔術師のような帽子を被り、マントを身に着けていた。
極めつけは、目が真っ赤、ということ。そして、瞳は少し暗めの黄色。
「もし、当たりだとしたら、君はもうピリオドを打つ他に選択肢などないがね」
「!」
「敵討ち、か?」
ウィリアムがそう尋ねた。
「まあ、そんなとこだね。それと、君も例外じゃないから。ウィリアム君」
「――!」
二人とも、何も言えなかった。
「仕方のないことだ。同情しよう。だけど、君も彼に力を貸したらしいじゃないか。だから、君も私の敵なんだよ」
「……それは、俺達がランツァとウィリアムだったらっていう話だよな?」
「そうだけど?」
「もしそうだったとして、俺達が素直に答えると思っているのか?」
うーん、と言いながら少し悩んでいるみたいだった。
「確かに殺されるとわかっていて、答えるわけないか……。それじゃあ、こうしよう。私が君たちを殺そうとする。そうすれば、全てがはっきりするんじゃあないかね?」
直後、彼らの背筋に悪寒が走る。
「で、どうだい? その提案は。中々、いいと思うだろう?」
「……間違っていたら、どうするつもりだ?」
「んー? 別に殺して終わりだけど?」
見た目に反してそんな話し方だから、恐ろしいことこの上ない。
「で、もう一回聴くけど、どうするんだね?」
「決まってるだろ。自分自身の命を護るために、この親友を護るために、俺は闘う」
「ランツァ……」
「うん、いいね。そう言うと、思っていたよ。いやあ、これは殺し甲斐がありそうで何よりだ」
開戦。
悪魔は、剣を出す。マントに隠れて見えなかったのだろうが、おそらく鞘も持っているのだろう。
対して、ランツァは。
「おい、お前武器とか持ってんのか?」
「ふっ……。あまり俺を見くびるなよ。こんな時のために、ちゃんと用意してきたからな」
そう言って、彼は右腕を肩の高さまで上げて、ピン、と伸ばす。
すると、手首にアクセサリーがあった。
そのアクセサリーには、剣の形をした物がついていた。
彼はそれを巨大化させて、銀色の剣を作り出す。
「これなら、闘えるはず」
「でも、それじゃあ敵を斬れないんじゃあないのかい?」
「あんたも俺を相当見くびってんな。そんなことぐらいわかってるよ。だから、前もって斬れ味はちゃんとしてきたんだよ」
「そうかい。じゃあ、遠慮はいらないんだね?」
そして、遂に両者の剣が交錯した。