第百四十六話 燃え盛る対抗心と怒りの炎
「随分とまあ、はっきり言ってくれるな……」
ランツァは苦笑しながら、小さな声で呟いていた。
――この決勝戦、あんたらに勝ち目はない。
そう言われた事に対して、ランツァは全く憤らなかった。あまりにも堂々と言われたせいなのか、妙に対抗心が燃え盛るだけで、怒りを撒き散らす事はなかったのだ。
その対抗心を糧に、ランツァは現状でのフルパワーを解放する。
「少しだけ、お前と真剣勝負したくなってきたぜ」
ボールを持つ右手を後方へ引き、一気に前方へと移動させる。
まるでバットスイングをした時のような音が鳴り、ボールが投擲された。
対する赤髪の男は決して臆する事なく、ただ迫り来るボールを注視していた。
そして、何かを悟ったかのように目を閉じた。
――そう、目を閉じたのだ。
迫り来るボールなど、まるで存在しないかのように。
数瞬遅れて、今度は男の口が静かに開く。
「舐めやがって……」
その直後、突き出された右手がボールを受け止めた。
「…………ッ!!」
あまりにも容易く受け止められてしまったのを見て、ランツァは絶句してしまっていた。
既に開かれていた男の瞳には、怒りの炎が燃え盛っている。
「おい……」
低く、凄まじい怒りを含んだ声が、男の口から発せられる。
「真剣勝負がしたいんだろ? なのになぜ、本気でかかってこない……?」
ランツァは暫し黙り込んでいた。どう返答すべきか、迷っていたからだ。
嘘をつくべきか、真実を話すべきか――。
おそらく、男はその真実を知っているのだろう。そう考えたランツァは、重たい口をゆっくりと開ける。
「本気でやれるわけがないだろ……」
そう。本気――即ち翼の力を解放する事など、できるはずがないのだ。
多くのギャラリーがいる、この場では。
「そうか……」
そう呟いた男は、失望したような表情を浮かべていた。
「俺達の勝ち試合とはいえ、できれば本気で闘い合いたかったんだがな……」
男は溜息をつき、ランツァ達に背を向ける。そのまま数歩ランツァ達から遠ざかり、再びこちらを振り向く。
「本望じゃないが、仕方ない。ちょっと手荒な方法で闘わせてもらうぜ」
それを聞いたランツァの背中に、悪寒が走る。
そして、赤髪の男が奇妙な言葉を口にする。
「人体強化、間解放――」