第百四十五話 ランツァの忠告
「ッつ~……」
痛恨の表情を浮かべるレリア。ボールが当たった箇所なのだろう、左腕を押さえながらゆっくりと歩き出す。
外野へと。
そんな彼女を見て、ランツァが声をかける。
「大丈夫か? 別に休んでてもいいんだからな」
「平気よ。ちょっと妨害されたけど、補助能力でボールの威力を多少は抑えられたからね」
振り返ってそう言ったレリアの表情は、確かに無理をしているようには見えなかった。
「そうか」
少し安心したランツァは、ほっと溜息をつく。そして、床上に落ちているボールを拾い、レリアをアウトにさせた赤髪の男を睨めつける。
――刃の如く、鋭い視線を向ける。
「一つ忠告しておく。俺は、仲間を傷つける奴は絶対に許さない。たとえ、試合の最中だろうが何だろうが……」
「……何が言いたい?」
赤髪の男は一切怯まずに、コートの中央で堂々と尋ねた。
呆れたと言わんばかりの表情を浮かべるランツァは、声を低くして応える。
「さっきみたいに、調子に乗るなって言ってんだ」
「…………」
そんなランツァを見て、赤髪の男が暫し沈黙した。
だが、それはすぐに苦笑へと変化し、やがて大きな笑い声を上げていた。
「調子に乗るな? 俺は真面目にスポーツを楽しんでいるだけだ。それのどこが調子に乗っているって言うんだよ?」
「お前がどう思おうが関係ない。俺の仲間を傷つければ、ただでは済まないって警告してんだよ」
そう返答したランツァの黒い瞳は、既に怒りの炎で煮えたぎっていた。
赤髪の男は、どこか面倒くさそうに溜息をつく。
「ただでは済まない、か……。俺からも、一つ言わせてもらおうか」
ほんの少しだけ、赤髪の男は間をおいて続ける。
「この決勝戦、あんたらに勝ち目はない」