第百四十一話 消失するボール
審判が上方へ投げたボール。それが一瞬だけ静止し、少しずつ高度を下げようとしていた。
ランツァはそのボールが落ち始めるタイミングで、金髪の男から見事に奪い去ってやろうと企む。
だが、その企みはいとも簡単に打ち砕かれてしまうのだった。
どういう事なのか、ボールがランツァの視界から消えたのだ。
「――――!?」
思わず息を呑んだランツァ。
何だ? 一体、何が起きたっていうんだ!?
驚愕するランツァを、ニヤニヤと笑いながら見ている金髪の男。
その彼にランツァは気づき、視線を向ける。
「お前……いつの間に……」
金髪の男の右手には、消えたはずのボールがある。
まさか、ランツァが視認できないほどの速度で、ボールを奪い取ったというのか?
もしそうなら、彼は間違いなく普通の人間ではないという事になる。
即ち、科学側の能力者という事になるのだ。
天使や悪魔ではないと言える理由は、天使や悪魔は、本能的に相手が人間であるかどうかを知る事ができるからだ。この場にいる天使はランツァ含め、キリエとレリアだけ。悪魔はいない。
だから、金髪の男は科学側の能力者である可能性が高いのだ。
そんな事をランツァが考えていると、金髪の男の表情が急に真剣なものへと変わっていった。
「いいのか? そんな隙だらけの格好で……」
「……隙だらけ? 正体不明のお前らを前にして、誰が隙なんか見せるかよ」
ランツァは意味がわからなかった。
なぜ、金髪の男がそんな事を言うのか、全く理解できなかったのだ。
ランツァは直に知る。
彼の言葉の意味と、その実力を――。