第百三十七話 最も劣る者
「さて……。どうするよ、皆?」
ボールを持つランツァが、味方四人にそう問いかけた。
「強いってわかってんだから、手加減なしでさっさと決着をつけようぜ」
と、提案するウィリアム。
「……それしかないわね。下手に手を抜けば、けがをしてしまう事にも繋がるしね……」
ウィリアムに賛同するキリエ。
「それじゃあ……やるか」
ランツァがそう言うと、彼の全身から力が溢れ出した。ただし、翼の力までは使わない。そんな事をすれば周りに正体を知られて、大変な事になるのは言うまでもないだろう。
「来るぞ! 気をつけろ!」
相手チームの内野の一人が叫び、警戒を促す。
だが――
「無駄だぜ」
警戒したところで、ランツァのボールを受け止める、または回避するのは至難の技だ。天使や悪魔ではなく、人間なら尚更だろう。
結果、ボールは凄まじい速度で、警戒を促した者の腹部に命中する。さらに、ボールは止まる事なく、もう一人アウトにして床に落ちた。
――ダブルアウトだ!
「よし!」
まさか、一度に二人もアウトにできるとは……。
ランツァはそう思いながら、ガッツポーズをしていた。
「ナイス」
親指を立てて、苦笑を浮かべるウィリアム。
これで、相手チームは残り一名だけ――。
対するランツァ達は、まだ一人もアウトになっていない。
誰もがランツァチームの勝利だと思った、その時だった。
ランツァのよりも遥かに速いボールが、レリアに襲いかかったのだった。
レリアは強制的に外野まで後退させられ、審判の笛が鳴る。
「先程と同じです。外野へ」
「…………」
絶句するレリア。
同時に、ギャラリー含め周囲が静まる。
そんな中で、ただ一人だけ言葉を発する者がいた。
「まだ勝負は終わってねえぞ」
それは、相手チームの残り一名。他の四人と比べれば、最も筋肉が少なく、身長も百七十センチメートル程。
どこからどう見ても、他の者達よりも劣っているのに……。
レリアをアウトにさせたのだ――。