第百三十六話 怒りのキリエ
「まったく……。ランツァ、あなた心配性なのね……」
「キリエ……?」
キリエに襲いかかったはずの、回避不可能のボール。キリエがアウトになってしまうのは、避けられない運命だと思っていた。
だが、実際は違った。
キリエは、アウトになっていなかったのだ。
「でも、大丈夫。避けられないのなら、受け止めればいいだけの話」
そう、キリエはボールを受け止めたのだ。
外野からの不意打ちとも言える、あのボールを――。
「ちッ」
思惑通りにいかず、派手に舌打ちをした赤髪の男。
「さてっと……。ちょっとだけ、本気で反撃しましょ」
そうキリエが言った直後、目にも止まらぬ速さでボールが放たれた。
「――ッ!!」
赤髪の男が、狙われた事に気付いて息を呑んだ。
彼は、キリエの逆鱗に触れてしまったのだ。
あのような罠に陥れ、ボールを当てようとしたのだ。その上、ランツァに一瞬とはいえ、心配をかけさせたのだ。キリエが怒って当然なのかもしれない。
咄嗟に、どう対処すべきか思考する赤髪の男。
しかし、避ける事も受け止める事もできない。それを、赤髪の男は悟る。
「く……ッ!」
かといって、ただ何もせずアウトになるわけにはいかない。
赤髪の男は、再び己の体と両腕でボールを包み込む。
決して、ボールを取りこぼさないように。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
凄まじい勢いをもつボールが、雄叫びを上げる赤髪の男を強引に動かす。
徐々に後退していき、後ろのコートラインが迫ってくる。
そして――
「クソッ…………」
コート外に脚を踏み入れてしまった。
審判が笛を鳴らす。
「ボールを受け止める際、外野に出てしまった場合はアウトです」
痛恨の表情を浮かべて、外野へ移動する赤髪の男。
「尚、ボールはランツァチームのものとなります」
審判からボールを受け取るランツァ。
相手チーム、残り三名――。