第百三十四話 不測の事態
まず一人、外野に移動させたウィリアム。
ボールは相手のコート内に落ちたため、今度は相手の番だ。
相手チーム、内野は残り四人。
フェルムボールでは、外野の者が内野に戻る事はできない。たとえ、敵チームの者にボールを当てたとしても、内野に戻れるというルールはないのだ。
それ故に、残り四人が外野へ移った時、ランツァ達の勝利が確定する。
「まず一人ね……。とりあえずは、有利になったってとこかしら」
と、キリエが言う。
「元々、負ける気はしねえけどな」
と、ウィリアム。
「何が負ける気はしねえ、だ。舐めてると痛い目見るぜ?」
ウィリアムを挑発してきたのは、相手チームの者だ。外野の奴含め、他の四人は黒髪だが、この者だけは血のような赤の短髪だ。
「へえ……。じゃあ見せてみろよ、その痛い目ってやつを」
直後、赤髪の男が持っていたボールが、高速でウィリアムに襲いかかった。
だが――、ボールはウィリアムの眼前で消えた。
「――!?」
絶句する赤髪の男。
ウィリアムもすぐには何が起きたのか、全然わからなかった。
「悪いな、ウィリアム……。少しだけでいいからさ、俺にも投げさせてくれないか?」
いつの間にかウィリアムの前でしゃがんでいたランツァが、少し口の端を吊り上げてそう言った。
原因は、ランツァだった。
早くボールを投げたいその一心で、ランツァは一瞬でボールを横から取ったのだ。
そのあまりの速さと、眼前で取られた理由から、ウィリアムは視認できなかったのだ。少し遠くから見ている、相手チームやギャラリーはなんとか視認できたみたいだが。
「仕方ねえな……。ちゃんと当てろよ、ランツァ」
「ああ」
赤髪の男目掛けて、ボールを放とうとするランツァ。
「……来いよ」
受けの体勢に入る赤髪の男。
そして、遂にランツァの手からボールが放たれる。
赤髪の男は己の体と両腕でボールを包み込むようにし、受け止めようとする。
「ぐ……ッ!」
踏ん張っていても、数センチだけ後退を余儀なくされる。
やがて、ボールの勢いが治まっていき――
「止めたぜ……」
ボールは赤髪の男に止められた。
「言っただろうが。痛い目見るってな」