第百三十三話 反撃
「狙いは私、か……」
キリエは向かって来るボールを受け止めるために、右手を肩の高さまで上げる。
その右手によって、呆気なく停止させられるボール。
「――ッ!?」
それを見て大男は驚愕し、口をぽかんと開ける。
そんな彼の反応を見て、キリエは苦笑を浮かべて言う。
「女だからって甘く見たでしょ。もう遅いとは思うけど、一応忠告しといてあげる。私はこの中で一、二を争う強者だから、気をつけるように」
大男は後悔の表情を浮かべ、他の相手チーム四人は度肝を抜かれて、言葉もなかった。
「それじゃ、反撃しよっか、ウィリアム」
「なんで俺!?」
と、ウィリアムは驚きながらも、内心ではどこか嬉しそうではあった。
対戦相手が弱いとはいえ、やはりこういう場で競い合うのは楽しいと思っているのだろう。
「仕方ねえな。なら、どいつから外野に移すんだ?」
「そうね……。やっぱり、私を狙ってきたあいつかしら……」
つまり、大男の事だ。
「オーケー」
ウィリアムはキリエからパスをもらい、ボールを投げる体勢に入る。
「くッ…………」
大男は妙な緊張を覚えながら、受けの体勢に入る。まだ始まったばかりなのに、額から大量の汗が流れている。
「いくぜ……」
直後、ウィリアムの手からボールが放たれる。同時に、ぶおん、という――まるでバットを空振りする時のような、風を切る音が鳴る。
凄まじい勢いをもつ十キロのボールが、大男に襲いかかる。
大男は決して避けたりなどしなかった。
理由はわからない。避けられなかったのかもしれない。だが、おそらく彼をそうさせたのは彼自身のプライドだろう。
負けたくない。そのプライドが――。
結果は、火を見るよりも明らかだった。
ボールは大男の腹部に当たり、数センチだけ後退させた後、床に落ちた。
「ぐッ……、クソッ……!」
大男は無念だと言わんばかりに、拳を床にぶつけていた。
ウィリアムは心の中で、彼を称賛する。
よく闘った、と――。