第百三十二話 ファーストターゲット
「試合を始めますので、両チーム整列してください」
フェルムボールの審判が、ランツァ達と彼らの相手チームに、そう促した。
審判から見て手前から、ランツァ、キリエ、ウィリアム、レリア、ティナと順番に並ぶ。彼らに向かい合う形で、相手チームの男五人も並ぶ。
改めて近くで見ると、すごい筋肉だな、とランツァは思う。おそらく、他の皆も同じように感じているのだろう。
だが、実力で言うなら、彼らは大した事はなさそうだ。少なくとも、天使や悪魔はいないと思うからだ。
なぜそう思うのかというと、天使や悪魔は本能的に人間であるか、そうでないのかを知る事ができるためだ。あまり詳しい事はまだわかっていないらしいが、確かに彼らやウィリアム、ティナはキリエやレリアとは違うものを感じる。
だから、このチームにはできる限り、手加減をしないとな、とランツァは思考する。
そして、審判が「礼」と言い、ランツァ達と男五人は礼をして、互いに挨拶をする。
「よろしくお願いします」
中央にランツァと、身長二メートルはあろうかという大男が残る。他の八名は、それぞれのチームのコート内に散らばる。フェルムボールでは、最初は全員内野なのだ。
「それでは、試合――始めッ!」
審判がボールを宙高くへと投げる。
そのボールを、ランツァは目で追いながら考える。――最初のボールは譲ってやるか。
その時、視界の端に入った仲間に気付くランツァ。
エレシスだ。試合を応援しに来てくれたのか。
このトーナメント戦、おそらくは余裕で優勝なのだろうが、それでもエレシスが応援しに来てくれたのは嬉しかった。
エレシスにも彼の試合があるため、全ての試合を応援しに来る事はできないだろうが。
対して、ガルメラとジェネスは応援しに来ないのかと、少しだけ不愉快になる。
とはいえ、彼らは悪魔だから、中々こういう場へは訪れ辛いのかもしれないが。
そんな事を考えながら、ランツァは適当にスタートし、相手チームにボールをプレゼントする。
「よし、先手はもらった」
ニヤニヤと、笑みを浮かべる大男。
やれー、やっちまえーと叫ぶギャラリー。最初の試合にしては結構な人数がいるな、とランツァは気付く。
「お前ら、どうする?」
「そうね……。一瞬で終わらせるのも面白いけど、ここはゆっくり楽しんでいきましょ」
と、提案するレリア。
「……そうだな。異議はないな?」
ランツァの問いに、三人は頷く事で応える。
「ゆっくりなんてさせねえよ!」
大男はそう叫びながら、十キロのボールを投げた。
標的は――――キリエだ!!