第百三十話 練習中に
放課後、フェルムボール出場が決定したランツァ達は、体操着を着て、外で練習をしていた。
普通のボールではなく、実際に試合で扱う十キロのボールで――。
「やっぱり結構重いな……。表面はほんの少しだけ柔らかくされてるみたいだが、勢いよく当たったらそれなりに痛いな」
ランツァがボールを持った状態で、そう呟いていた。
「まあ、そのおかげでスリルがあって、俺は楽しいと思うぞ」
と、ウィリアムは言った。
……朝言っていた事とは大違いだな。
最初はキリエに無理矢理参加させられていたはずなのに、ウィリアムは本当に楽しそうだった。実際にやってみて、気が変わったのだろう。
「でも、できれば外じゃなくて体育館でやりたいよなぁ……」
ぽつりと本音をもらすウィリアム。
「仕方ないだろ。今、中はバスケやバレーの練習で使われてんだからさ」
「……でもよ、人数少ないからって、あいつらよりも中でできる練習回数が少ないのはおかしいだろ……」
汗を拭いながら、ウィリアムは不満そうに文句を垂れていた。
「……暑いし」
「そりゃ、まだ九月上旬だからな……」
暑さについては、ランツァも同じ意見だった。
彼らの会話を聞いていたキリエが、唐突に呟く。
「強い風でも吹けばいいのにね……」
そうだそうだと、ランツァとウィリアム――そしてレリアとティナまでもが、大きく頷いていた。
その時だった。
まるで彼らの願いを叶える神様がいるかのように、突風が突然生じ、一瞬だけ彼らを天国へと導いていた。
「おおっ、結構強くていい風じゃないか」
ウィリアムが嬉しそうに言い、
「なあ、みん……な……?」
他の四人に賛同を求めようとした時、彼は気付く。
妙に緊張している三名と、不思議そうにその三名を見ているティナに――。
「どうしたんだ? 急に……」
ウィリアムは胸騒ぎを覚えつつ、彼らに歩み寄る。
「ちょっと遠いから、はっきりとは言えないけど……」
レリアが、体が震えてしまうのを押し殺しながら、小さく呟く。
「三人いて、そのうち一人は桁外れに強いわ……」
それを聞いて、ウィリアムが深呼吸をして言う。
「何言ってんだ。さ、練習しようぜ」
何事もなかったかのように振る舞うウィリアム。
「……そうだな」
練習を再開するランツァ達。
だが、ティナを除く誰もが、心に不安を抱えていた。
ティナだけは――何か訝しむような、そんな表情を浮かべていた。
ランツァ達は知らない。レリアが言った三人の正体が、アグウィス、トルス、アランであり、既にその場にはトルスしかいない事を――。