第百二十八話 鋼鉄の掟
「……復讐だと? そんな理由で、ヴェルーダに化けてたっていうのか?」
低く唸るような声で、トルスはそう尋ねた。
「そうさ……」
肯定するアラン。
その時、アランの視線がアグウィスに集中した。
その事に気付き、アグウィスは悟る。
「なるほどな……。復讐の相手は、この俺、か……」
かつてアグウィスは、罠に陥れようとしたアランを襲った事がある。その時、アグウィスは殺すと言いつつも、結局はアランをわざと殺さなかった。理由は、アグウィスが殺しを嫌っているからだ。
そして、殺されなかったアランは、襲われた時の傷を心に刻み、アグウィスに復讐する事を決意していたのだった。
「つまり、ヴェルーダに変身していたのは、この俺を再び罠に陥れようとしていたからって事か……」
直後、高らかなトルスの笑い声が轟いた。
「ってことはアグウィス、てめえの敵でもあり俺の敵でもあるそこの変身クソ野郎は、今ここで殺すべきだよなァ……」
やはりこうなるか……。
アランはアグウィスに己の正体を知られた時から、心の奥底で密かにある事を悟っていた。
そう、己の死を――。
復讐を果たせないのは嫌だが、こうなってしまった以上、もうどうしようもない。
所詮、弱肉強食の世界では、弱者の願いは叶わないものなのだ。
弱者の俺はここで彼らに喰われ、人生にピリオドを打つ。
それが、この世界の掟。
逆らいたくても、逆らえない鋼鉄の掟なのだ。
アランは己の死を受け入れて、言い放つ。
「殺すなら殺せ……。あんたらみたいな化け物が相手なら、もう俺に勝ち目はないからさ」