第十二話 石と炎
ウィリアムのおかげで手に入れられた武器。それは、鋭利な石の剣だった。
「…………」
互いに睨みあうランツァと悪魔。
その時、悪魔の方が沈黙を破る。
「一つ聞く。てめえの能力は何だ?」
「今さらか。ま、教えておこうか。一応な……。俺の能力名は大小操作と言う」
「大小操作か……。まあ、そんなことは見ていれば、大体想像がつくがな」
ならば、と悪魔は続ける。
「俺の能力は一体何だろうか?」
ふいに、問いかけられる。
「…………」
だが、彼は答えられない。
「単に、炎だけではないことは教えておこう。それと、俺の悪魔名はバクだ」
「悪魔名?」
「まあ、俺の名前ってとこだな」
「……そうかよ」
悪魔名は、普段の彼の名前とは異にしていた。おそらく、正体を隠す為に偽の名前を使っていたという事なのだろう。
「じゃあ、次だ。俺の能力、ちゃんと理解してないと、多分てめえには勝てないかもしれないなぁ!」
その瞬間。
バクの手から炎の剣が生成される。
それは赤く輝き、鋭い刃を持つ。ついでに、高熱も有する。
「ぼさっとしてんなよ。ここからが本番だ」
我に帰るランツァ。
もし、何も言わずに斬りかかられたら、チェックメイトだっただろう。
「本気同士の闘いだ。楽しもうぜ、なぁ!」
悪魔が地面を蹴る。すると、そこに亀裂が走った。
そして、悪魔は恐ろしいスピードで突っ込んで来たのだ。
ガッ、と互いの剣が交わる。
だが、やはり炎の剣の方が有利だった。
ランツァの石の剣を少しずつ融かしていたのだ。
「――!」
「終わりにしようぜ。ランツァァァァァァァァァァァ!」
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
ズドン、と。
ドシュッ、という刺す音ではなく。
叩きつけるような音が虚空に響く。
「…………」
それをやったのは悪魔ではない。
ランツァだった。
「ぐはっ……」
悪魔は石の剣の下敷きになっている。
つまり。
さらに、巨大化させたということ。
ただ、今までずっと不思議に思っていたが、全く重く感じないのだ。巨大化させても。
その時、また音源不明の声が。
「それは、大小だけを操り、重量は変えないからだ」
やはり、周囲を見回しても誰もいない。
「クソっ……」
悪魔はそんな中でも、話しかけてきた。
「俺の負けか……。まさか、天使でも悪魔でもない奴にやられるとはな……。正直、驚かされた。はあ……。だが、楽しかったぞ。ランツァ……」
ランツァは、悪魔の命の灯が潰えるのを感じた。
「バク……」
たとえ相手が極悪の悪魔だとしても、ランツァにとって命を奪うということは、身の細る思いでしかない。
「ランツァ……」
ウィリアムの声が聞こえた。
「やったな……」
だが、その声には不安が混じっていた。
「…………」
ランツァは顔を向けられない。
「心配するな。俺たちは生きているんだから」
「……そうだな」
彼は夜空を見上げてそう言った。
気付けばもう、真っ暗になっていた。
「とりあえず、寮に戻って休もう」
ウィリアムは提案する。
「ああ。それが得策かもしれないな」
こうして、闘いは終わりを告げた。