第百二十四話 支配する力
「だあぁッ! クソッ、何がどうなってやがる……」
吐き捨てるように言いながら、トルスは宙を舞う粉塵を両腕で振り払い、姿を現す。
「アグウィス! てめえ、一体何をしやがった?」
「何って、お前を殴り飛ばした、ただそれだけだろうが」
「俺が聞いてんのは、そんな事じゃねえッ!!」
トルスは怒りを堪えきれないといった様子だった。科学側で第二位という己のプライドが、ほんの少しでも他者に劣る事を許さないからだ。
たとえ、相手が最強の悪魔であろうとも。
「その第二形態ってやつは、何なんだって聞いてんだ。さっきまでとは桁外れのスピードで動きやがって……」
「……まあ、教えてやってもいいが……。まず、俺の能力は覇者の力だ。この力は触れた物だけに限るが、触れれば自由自在に操ったり、変化させたりする事ができる。つまり、支配だ。そして、その能力はこの俺自身にも適応される。その力で、俺は俺自身の体を、雷を宿す体へと変化させた。それが、第二形態。この形態は、スピードのみを飛躍的に上昇させる。そのスピードを簡単に言うならば……」
その時、トルスは背筋に悪寒が走ったのを、確かに感じた。
(この俺が……あの野郎を恐れているだと……!?)
アグウィスは消えるような速度で、トルスの背後へと移る。
「光を超える」
アグウィスの回し蹴りが、トルスの横腹を襲った。その衝撃波で、周囲のアスファルトが砕け散る。
為す術もなく、トルスは吐血を撒き散らしながら吹き飛ばされる。数百メートルも先にある建築物の壁を破壊し、粉塵が舞う。そして、漸くその勢いが止まる。
「終わりにしようぜ、トルス」
ゆっくりと歩み寄るアグウィス。その足音はまるで、トルスへ死のカウントダウンを告げているようにも聞こえた。
アグウィスは歩きながら、バチバチと鳴る右腕を掲げる。
「ルーメン」
直後、
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォッ!!」
アグウィスの行動を遮るように、トルスの雄叫びが大気を震わせた。
大量に溢れ出した雷を纏って、トルスが建物の中から出てくる。
「覚悟しろよ、アグウィス。俺を本気で怒らせたらどうなるか、思い知らせてやる……。この俺の、最大戦力でな!」