第百二十一話 命と支配権
龍。
それは、昔から伝説とされている生物だ。
天使や悪魔とは違い、多くの者から崇められている龍。
そのような神秘的な存在を、科学側の者達は決して見逃さなかった。
彼らはその伝説の生物を、科学の力で創造する事に成功したのだ。
――それが、雷龍。
雷を司る龍。黄金に輝く全身は、神々しさを感じさせる。その実力は、悪魔の将軍などとは比べ物にならない。
だが、その雷龍が今相手にしているのは――
「どうした、トルス? 実力を見せるんじゃなかったのか?」
中々攻撃してこないトルスに、アグウィスは挑発をしていた。
――いや、攻撃できない、というべきか。
相手は最強の悪魔、アグウィスなのだ。迂闊に闘いを挑めば、返り討ちに遭ってしまうのは誰にでも予想できる事。
たとえ、雷龍であろうが――。
それ故に、トルスは力を開放したまま、アグウィスに警戒の視線を向けていた。
「そんな挑発に、この俺が乗るわけがねえだろうが」
「……まあそうだろうな。なら、俺からお前をぶっ飛ばしてやろうか?」
アグウィスの漆黒のオーラが、爆発的にその量を増す。
「ぶっ飛ばす、か……。科学側の者であるこの俺を、ぶっ飛ばすだけで殺さないってのか? てめえが平和主義なのは知ってるが、流石に甘すぎると思うがな……」
トルスがそう言った直後、アグウィスが苦笑を浮かべていた。
「トルス、俺がなぜここに来たか、ちゃんと聞いてたのか? 俺は、お前ら科学側に協力してもらうためにここに来たんだぜ」
「……協力はしねえと言ったはずだが……」
「ああ。だが、そんだけでこの俺が引き下がるとでも思ったのか? 断るなら、力ずくで協力させるまで……。殺したら、元も子もねえだろうが」
なるほど、とトルスは胸中で納得する。
「それならこうしねえか? この闘い、俺が負けたらてめえに従おう。逆に俺が勝ったら……、てめえにはここで死んでもらう」
「おもしれえ……」
アグウィスは口の端を歪めて、雄叫びを上げる。
「さっさと始めようぜ。命と支配権を賭けた、覇者と雷龍の闘いを!」