第百十九話 ヴェルーダ・レイン
「ふうん……、彼が、ね……。一体何のために、あの場所で暴れているのかな……」
あまり広くない室内に、直径三メートル程の円形のテーブルがある。その上に脚を乗せ、椅子に背を預けながら、淡々と呟く男がいた。
彼の名は、ヴェルーダ・レイン。銀髪で、瞳は金色に輝いている。年齢はおそらく三十代だろうが、かなりのイケメンだ。
そして、彼の左右にテーブルを囲んで座っている、男が一人と少女が一人。
ヴェルーダから見て右に座っている少女の名は、リネア。細胞操作という能力をもつ悪魔、ケッラを倒した少女だ。
左に座っている男の名は、シエンス。髪の色は紫で、縁の色がピンクの眼鏡をかけている。瞳は赤く、年齢は二十歳前後といったところか。
まるで、会議でもしているかのような雰囲気だ。――いや、本当に会議をしているのか?
ヴェルーダが呟いてから、暫く沈黙が続いていた。その沈黙を、シエンスが破る。
「奴が他の悪魔のために闘う事など決してありません。したがって、ブラックは無関係と見て間違いないでしょう」
「……なら、お前は何が理由だと思う?」
「理由はわかりませんが、おそらく、ソールの件に関係あるかと……」
シエンスのその言葉に、ヴェルーダは少し考え込む。
やがて、ヴェルーダが指を鳴らして言う。
「やっぱり、直接聞くのが一番じゃないかな……?」
それを聞いて、思わず笑いを吹き出していたのはリネアだった。
「本当にヴェルーダは面白い事を言うよね。しかも、大真面目にさ」
「そんなに面白いのか? 奴とは知り合いだし、奴の性格上、聞いたら攻撃してくるなんて事もないだろうし……。妥当だとは思うんだけどなあ……」
「確かに、妥当かもしれませんね」
シエンスが無表情で言った。
「でもさ、あの蛇が奴の所に行ってるんでしょ?」
リネアが笑うのをやめて、真剣な表情でヴェルーダに問いかけた。
「ああ。蛇じゃなくて、龍だけどな……」
「どっちでもいいでしょ。どっちも鱗があるし」
「そういう問題か……」
ヴェルーダが苦笑する。
「確かに、あの者が奴の所へ行っていますが、このままでは奴に殺されるかもしれませんよ」
シエンスが厳しい表情をして言うと同時に、周囲の空気が重くなっていた。
「仕方ない……。血の気が多い部下とはいえ、死ぬかもしれないのを黙って見ているわけにもいかないからな……」
ヴェルーダは軽く深呼吸をして、二人に言い放った。
「行くぞ、最強の悪魔と話をしに!」
直後、リネアがまた笑っていた。