第百十七話 死の悪寒
アグウィスが猛スピードで男に向かって突進する。
上空にいる、敵に向かって――。
「いくらお前が瞬間移動で回避しようと、俺にとっては無意味だって事を教えてやる」
アグウィスは握り拳をつくり、それを男に向けて放とうとする。
「無意味、ですか……」
直後、男の姿が再び消えた。
しかし、今度は男がどこへ瞬間移動したのかが、一瞬でわかった。
その場所が、アグウィスの目の前だったからだ――。
突然の出来事に、思わずアグウィスは愕然とし、動きを止めてしまう。
その隙を、男は決して見逃さなかった。
「それはこちらのセリフですよ」
男はそう言うと、広げた掌でアグウィスの胸部を張り飛ばす。
「ぐッ!!」
アグウィスは為す術もなく、地面に向かって弾丸のように落ちていく。
そして地面にぶつかると同時に、アスファルトが砕け散り、周囲にその破片の雨を降らしていた。
男はそれを見届けながら言う。
「この程度ですか……、最強の悪魔というのは……。まったく、話になりませんね。素直にここから去っていれば、死なずに済んだかもしれないものを……」
男が念のためにアグウィスの死を確認しようと、地上に降りようとしたその時――。
「誰が死んだって?」
背後から聞こえたその声に、男は死の悪寒を感じた。
恐る恐る男は振り返り、声の主を確かめる。
「俺は平和主義者だが、最強って呼ばれている悪魔でもある。……つまりだな、最強っていうのは、一番強いって事なんだよ。お前みたいな雑魚相手に、俺が死ぬわけがねえだろうが!」
声の主アグウィスは、怒りを露わにしていた。
己を侮辱した、この男に対して――。