第百十六話 瞬間移動
黒スーツの男に向かって、アグウィスは手刀を放つ。
「この俺を排除できる奴は、存在しねえんだからよ!」
アグウィスの手刀が、男の腹部を貫こうとする。
――その時だった。
突然、男の姿が消えてしまったのだった。何の前触れもなく、アグウィスの視界から消え去ったのだ。
「――――ッ!!」
その出来事に、アグウィスは驚きを隠せなかった。同時に、この場で初めて警戒体制を取っていた。
「……どこへ行きやがった……」
「ここですよ」
アグウィスの独り言が聞こえたのか、頭上から男の声が聞こえた。
すぐさまアグウィスは天を見上げて、男を視界に捕らえる。
「……お前の能力か?」
アグウィスは勘を頼りに、男にそう尋ねていた。
突然消えた事が能力と関係あるのなら、なんとでもなる。しかし、その逆の場合は危険な可能性が出てくるのだ。
例えば、アグウィスが男の身体能力についていけないために、視界から逃してしまったとしたら……。それは、アグウィスが攻撃を全く当てられない事を意味する。
とはいえ、アグウィスは最強の悪魔。そんな事は、まずあり得ないのだろうが。
男はアグウィスの質問に少し黙り込み、やがて意を決し、口を開いた。
「私の能力は、瞬間移動。自由自在に自身を瞬間移動させる能力です。それと、私が空中にいられる理由は、飛行能力を付加させた靴を履いているからです」
――質問以外の事も教えたのは罠か?
アグウィスは、なぜ男が空中にいられる理由を教えたのかわからなかった。……ひょっとしたら、罠だと思わせる事で、思い切った行動を封じるという罠なのかもしれない。
しかし、罠だろうが何だろうが、アグウィスにはほとんど関係なかった。
男が消えた理由が能力を使ったためならば、やる事はただ一つ――。
先手必勝ッ――!!