第百十一話 戦争を止めるには
「ったく……。どいつもこいつも、面倒な事しやがって……」
ランツァ達が住んでいる街を見下ろしながら、赤髪の男は悪態をつく。
彼の名は、アグウィス。最強と言われている悪魔だ。
見下ろしながら――というのは、どういうわけか、彼が宙に浮いているためだ。数百メートルもの高さの所で、どうやって静止しているのだろうか。
「ソールのクソ野郎を引き金に、この戦争は必ず悪化する。なら、その引き金を潰せば済む話なんだが……、こっち側に来た途端、姿を晦ましやがった。どうすりゃ、この戦争を止められる……」
誰に言うわけでもなく、アグウィスはただ独り言を呟いていた。
戦争を止める。ただそれだけのために、何かいい手はないかと、彼なりに考えているのだ。
「アンゲルス……あいつらを潰せば、簡単に悪魔側の勝利で終わる。だが、それまでにどれだけの命を奪わなければならねえんだ? それに、天使がいなくなれば、今度は人間との戦争が激しくなる。この方法は賢明じゃねえな」
なら、悪魔側を潰すか?
天使側が勝利すれば、人間との戦争は避けられる可能性がある。しかし、それもまた多くの命を奪う事を意味する。
何か……何かいい手はないのか。死者をほぼ生み出さない、素晴らしい手段はないというのか。
――いや、ある。
「仕方ねえ。少し手荒いやり方だが、利用させてもらうか」
アグウィスはそう言い、移動を始める。
目的地は、ある悪魔が死んだ場所。
その悪魔の名は――ブラック。