第百七話 転入生
九月四日、午前八時半頃。
「今日は嬉しいニュースがあるぞ!」
教室に入ってくるなり、急に教壇にある机を両手でドンと叩く担任教師。妙にハイテンションだな。
「このクラスに、転入生がやって来たぞ!」
……は? 転入生?
「さ、恥ずかしがらずに、教室へ入って自己紹介しなさい」
担任は開けっ放しのドアの方を向いて、優しく促す。少しだけ間が空き、転入生が教室へ入ってくる。
長く伸ばしている銀髪、大きな水色の瞳。肌の色は白く、その美貌はクラスの男子全員を惹きつけていた。
「ティナ・グレースです……。よろしくお願いします」
緊張しながら自己紹介をするティナを見て、ますます惹かれていった者までいる。しかしその一方で、クラスの女子全員はつまらなさそうにしていた。重いため息をつく者もいる。
そんな彼らに気付かぬフリをして、担任はティナに席を教える。
「君の席は、彼の右斜め後ろだよ」
その時、担任がその「彼」に向かって指を差した。
「……え?」
ランツァは驚愕の表情を浮かべていた。
その「彼」が、ランツァだったのだ。
直後、クラスの男子から向けられた怒りの視線。
俺……何も悪い事してないよな……?
そんな危機的状況にあるランツァを、唯一面白そうに見ている者がいた。
「クク……」
笑いを堪えながら、ウィリアムが楽しそうに見ていたのだ。
「ったく、他人事だと思って……」
誰にも聞こえないくらい小さな声で、ランツァは悪態をついた。
少し気まずそうに、ティナが遅れて自分の席へと向かう。
その途中、ランツァの前でティナが笑顔を浮かべて言う。
「急な話かもしれないですけど、よろしくお願いしますね」
さらに、ティナはランツァの後ろの席に座っているレリアに対しても、同じように振る舞う。
「お隣同士、仲良くしてくださいね」
「レリアよ、よろしくね」
レリアも笑顔で軽く自己紹介をした。
そして漸く、ティナが席についた。
この時、ランツァ達はまだ知らなかった。
天使、悪魔、人間、その三勢力の戦争が、本格的になってしまう事を――。