第百六話 永久の平和を願う心
ランツァ達はあの後、アンゲルスの基地へ戻る事はなく、そのまま解散していた。理由は、戻って話し合う暇がなかったからだ。ランツァ、キリエ、ウィリアム、レリア、エレシスにとって、九月四日が休日ではないために――。
そう、彼らには学校というものがあるのだ。
もし基地へ戻って話し合っていたら、不眠不休で登校しなければならなかっただろう。闘いの後でそんな事をすれば、体がもたないのだ。
だから、彼らはあの後すぐに家へ帰ったのだった。
そして時が経ち――、九月四日、午前八時。
眩しい朝日に、ランツァは強制的に起こされていた。しかし、これは逆に良い事なのかもしれない。
辛い起床に耐えながら、ランツァはゆっくりと起き上がる。
「ふあぁ……。なんだ、もう八時か……」
…………ん?
「やべっ! 遅刻してしまうぞ、こりゃ」
寝ぼけていたのか、漸く己の危機を悟ったランツァ。もし、今日の天気が曇りで、太陽が顔を出していなかったら……。
「急がねえと!」
ランツァは超高速で、朝食と身支度を済ませる。
――やばい、もう八時十分だ!
その時、ふと気が付く。
「……あいつは?」
あいつ、というのはウィリアムの事だ。アンゲルスに加わった事で、本当の仲間になったウィリアム。そのおかげなのか、彼は少し前のように、ランツァと同じ寮の部屋で過ごしている。……はずなのだが……。
「まさか……、俺を起こさずに一人で行ってんのか!?」
クソッ。何というか、一本取られた気分だ。
ランツァは急いで寮を飛び出し、猛ダッシュで学校へ向かう。
数十秒経ったところで、横断歩道の前で停止を余儀なくされる。
(頼む……ッ! 間に合ってくれ……ッ!!)
「おはよっ」
ランツァは密かに願い事をしていると、背後から肩を軽く叩かれた。
「ん? キリエか、おはよう。…………って、遅刻しそうなのに、余裕な表情だな、おい」
妙に明るすぎるキリエの笑顔に対して、ランツァは不思議に思った。
「別に遅れても、私の能力を使えばどうにでもなるもんね~」
ぐっ……。やるな、この大天使。罰を受けそうになっても、教師のその意志を能力で潰せば……。
俺の能力じゃ、間違いなく遅刻からは逃れられないな……。
「でもまあ、今回は付き合ってあげる。なんか、面白そうだしね。……さてっと、学校まで競争しよっか」
「……いいだろう、受けて立つ!!」
直後、横断歩道の信号が青に変わった。
ほとんど差がないスタートダッシュ。そして、差が開かずに平行移動を数秒間。
「やるな、キリエ」
「あなたもね」
「面白そうな事してるじゃない。私も混ぜてよ」
「先輩達、僕も参加させてもらえますか?」
ランツァとキリエが競い合っている時、突如として二人の男女が無理矢理割り込んできた。レリアとエレシスだ。
まったく、あいつ以外は遅刻しそうなのかよ。
そう思いながら角を曲がった時、上り坂の途中地点にいるあいつを見つけた。
「ウィリアァァァァム!!」
絶対に抜かしてやるッ!!
唐突に、ランツァは争う相手を切り替えていた。そして、ウィリアムが何メートルも先にいるためか、凄まじい闘争心でキリエ達を切り離していた。
「なっ……」
ウィリアムを含め、ランツァ以外が息を呑んだ。
「ランツァ!?」
「うおおおおおおおおおおおおッ!!」
雄叫びを上げながら追いかけてくるランツァ。彼の後ろから追いかけてくるキリエ達。
俺……狙われているのか!?
ランツァはともかく、キリエ達にまで狙われる覚えはない。しかし、この場合、取る道は一つ――。
「逃げるか」
少し勘違いをしながら逃げていくウィリアム。行き先は皆同じだが、校内でランツァ達から逃れる方法はいくらでもある。とりあえず、遅刻しないようにしないと……。またあの担任に何をされるか、考えるだけでも恐ろしい。
結果としては、皆が無事に遅刻を免れる事ができた。ウィリアムの誤解もすぐに解け、ランツァは少し文句を言っただけで終わった。
時刻は、午前八時半。
ランツァ達は教室の中にいた。エレシスだけは学年が違うため、今ここにはいない。
とても心地良い朝日が、教室を照らしている。起きた時とは完全に真逆の心地良さだ。
ランツァは心の中で思う。
こんな平和が、ずっと続いたらいいのに、と――。
第二章、漸く終わりました~^^;(長かった……。最後の挿絵は、断罪剣(左)と聖なる剣(右)です)
第二章まで読んでみてどうでしたか? (楽しんで頂けたならいいのですが……)
感想やアドバイスなど、(悪い点でも)大歓迎ですのでよろしければお願いします。特に悪い点は大歓迎です(笑)今後に活かして、もっといい作品にしたいですから。
最後に、ここまで読んでくださった読者の皆様に、心からの感謝を――。