第百四話 氷龍砲VS右手
ソールに牙を剥く、氷龍砲。その攻撃を、ソールは右手だけで受け止めようとする。
「お前の攻撃、無に返してやろう」
氷龍砲とソールの右手がぶつかり合う。青い稲妻のようなものが、氷龍砲から周囲にたくさん放たれる。何かを狙っているわけではない。それらは大地やあらゆる建築物に当たると、当たった場所を即座に凍りつかせていた。
「ちっ……、流石に奥義は時間がかかるか」
一瞬だけソールの脳裏を、純白の翼の力を使うかどうかという事が過ぎった。
「……必要ないな」
ソールは純白の翼を使わない事を選んだ。翼の力を使わずに勝つ事で、力の差をはっきりとさせるためなのだろうか。
「エレシス……、お前には落胆させられたよ……」
「……もう少し強いと思った、そういう事ですか……」
「ああ……。やっぱり、お前の攻撃は消さない事にする。奥義でも傷一つ付けられない事を、教えてやるよ」
直後、轟音を立てながら、氷龍砲がソールを呑み込んだ。同時に、白い霧が皆の視界のほとんどを覆い尽くした。
暫くして霧が晴れると、
「なっ……!!」
ランツァは驚愕のあまり、息を呑んでいた。
ソールが、半透明な氷の山の中に埋まっていたのだ。さらにどういうわけか、攻撃を直接受けていない地面やあらゆる建物の一部が、抉り取られていた。
「おい……、これって、まさかあれが……」
「そうです」
エレシスが首肯した。
「まったく……。あんたが奥義を使えるなんてね……。ほんと、びっくりしたよ」
レリアが呆れた様子で言った。
「ですが、ソールはまだ生きていますよ」
「当たり前よ。こんなんで死んだら、私達アンゲルスはかなり前から潰されていたわよ」
当然だ、とキリエはそう言いながら、首を縦に振る。
「……今は敵だけどな……」
厳しい現実というものを、ガルメラが呟いていた。
その時、ソールを覆っていた氷の山が、粉々に砕け散った。
「残念だ……この程度とはな……。お前らを殺す気もなくなってしまうくらい、残念だ」
ソールはそう言い、ランツァ達に背を向けた。
「火、水、氷、雷、地、風、光、闇、滅、生、吸、無……。これら十二属性それぞれの必殺技である、十二奥義ですら、俺に傷を負わせられない……。まったく、話にならん。修行して、もっと己を磨いてこい。そして……」
そこでソールは一旦言葉を区切り、アザルドへ行くための真っ赤な扉を創った。
「この俺を、楽しませてくれ」
ソールはぞっとするような笑みを残して、アザルドと繋がっている扉の中へと、入って行った。
扉が閉まるとすぐに、その扉はだんだんと薄れていき、消滅した――。