第百三話 氷龍砲
「……一つ聞きたい」
ランツァがソールを睨みながら、押し殺したような声で言った。
「てめえがアンゲルスに加わっていた理由を教えろ」
「アンゲルスに加わっていた理由か……。特に理由はないな。俺はただ、この戦争を面白くしたかっただけだからな。別に、アンゲルスに加わる必要があったわけじゃあない」
「……つまり、俺達を裏切って、その反応を楽しみたかった……そういう事か?」
「……ああ」
ニヤリと笑みを浮かべるソール。
その時、周囲の空気が一変した。比喩などではない。まるで、冷蔵庫の中にでもいるみたいだ。凄まじい冷気が、皆の肌を撫でているのだ。
「ソール……覚悟はいいですか?」
「何?」
直後、エレシスがソールに向かって突進していた。エレシスは純白の翼を広げ、拳を握り締める。その拳は、ソールの顔面目掛けて真っ直ぐに放たれる。
突然の不意打ちに、ソールは一瞬だけ対応するのが遅れる。
しかし、それでもソールは間一髪でエレシスの攻撃を防ぐ事に成功する。右の掌で受け止めたソールが、地面に靴を擦らせながら一メートル程後退する。靴を擦らせたところのアスファルトが、黒く焦げている。
「卑怯だな、エレシスよ……」
「別に卑怯でも構いませんよ。僕は、昔からあなたが大嫌いだったんですから……。仲間に向かって命令ばかりしていた、あなたが……」
「だから何だ? 俺が嫌いだから、俺を殺すのか?」
「それもありますけど、他にも理由は山程ありますよ」
エレシスがそう言った時、さらに気温が下がった。
一体、何が――!?
「ソール、あなたにはここで死んでもらいます」
エレシスの翼が、青白く輝き出した。
「十二奥義、其の参……」
続いて、エレシスの右手も青白く輝き出す。翼の方の輝きとは比べ物にならないくらい、眩しい輝き――。
「十二奥義か……。いいだろう、来い。実力の差というものを教えてやる」
ソールが右手を前に出す。――まさか、右手だけで受け止めるつもりなのか……!?
それを見て、エレシスは笑っていた。勝利を確信しているような、そんな笑みを浮かべていた。
「氷龍砲!!」
直後、龍のシルエットをした氷が、大砲の如く、エレシスの右手から放たれた。
気温は、軽々とマイナスの領域に足を踏み入れていた――。