第百二話 残酷非道
ランツァ達の大方の傷を治し終えた時、レリアが、一旦アンゲルスの基地へと戻ろうと、皆に呼びかける。
「そうね。でも、ソールはどうするの?」
キリエがレリアに向かって問いかけた。
「そういえば、あの時から見かけねえな……」
キリエに賛同するように、ランツァはそう呟いていた。
「でも……、どこにいるかわからないし……。闇雲に探しても、埒があかないじゃない」
「それもそうだけど……」
レリアの正論に対し、キリエは思わず言葉に詰まってしまう。
しかし、すぐにこの事は杞憂に終わっていた。
「いやー、大したもんだ。ブラックを倒すとはな……。スピードだけなら、あいつは王にも匹敵するくらいの実力者なんだぞ……」
この声は――。
「ソール!?」
「何だ? 俺を待ってたのか?」
堂々と、高層ビルの屋上から飛び降りてきたソール。地に足をつくと同時に、アスファルトに亀裂が走る。
「まったく……。お前ら、ブラックから聞いてないのか?」
……何を?
突然のソールの言葉に、皆が首をかしげていた。
それを見て、
「アーッハッハッハッハッ!」
ソールは急に爆笑していた。
「……何がおかしいのよ?」
それに少し怒ったキリエが、ソールに尋ねた。
「いやあ、本当に聞いてないみたいだな……」
まだヒーヒーと腹をかかえているソールに対して、キリエは肩をわなわなと震わせていた。
ソールはそれに気付き、漸く真面目そうな顔になる。
「……単刀直入に言う。俺は……、悪魔側の大天使だ」
その時、周囲が凍りついた気がした。
悪魔側の大天使……!?
「どういう意味……? 何かの冗談よね……?」
「いや、大真面目だ。俺は、お前らの敵だ」
「…………」
言葉を失っていた。ソール以外の全員が――。
ソールは、俺達の敵、だと――!? アンゲルスのリーダーが、悪魔側の野郎だったというのか!?
「なぜ俺が悪魔側についているのか、そう言いたいんだろう? なに、簡単な話だ。俺は死にたくない。だから、勝率が高そうな悪魔側についた。天使側は昔から、悪魔側に押され続けているからな。大天使の存在が邪魔で、中々決着がつけられないでいるが……。ただそれだけの話だ」
――理解できない。いや、理解するのを拒んでいるのか? アンゲルスのリーダーが、本当に悪魔側についてしまっているのなら、相当こちらは不利になってしまう。それが恐ろしくて、理解するのを拒んでいるのか?
……違う。俺は、なぜあんな血も涙もない連中と組むのか、理解できていないだけだ。
「今ならまだ間に合うぞ。どうだ、俺の仲間として、悪魔側に来ないか? お前らも、死ぬのは嫌だろう?」
ああ、死ぬのは嫌だ。だけど……、
「断る」
そんな連中と組むくらいなら、死んだ方がマシだ。
「……なぜだ? ランツァ」
「てめえみてえな奴になんか、一生わからねえよ。俺が断る理由はな……」
「ソール!」
キリエが、ランツァとソールの会話に割って入ってきた。
「何か、悪魔の仲間にならなければならない理由とかがあるんじゃないの……?」
キリエはまだ、ソールの事を仲間として見ているようだった。仕方ないのかもしれない。ランツァよりも付き合いが長いのだから。
「理由、か……。あるぞ、理由なら」
「え?」
皆が声を揃えて愕然としていた。同時に、ソールに期待を抱く。
だが、
「生きたい、それだけだ」
ソールは皆の期待を、尽く破壊した。
残酷非道な笑みを浮かべて――。