第百一話 姿なき悪魔の終焉
聞こえる。
私の名を呼ぶ声が――聞こえる。
一体、誰が……。
「――――エ! ――リエ! しっ――しろ、キリエ!」
「……だ……れ……」
目の前で必死に叫んでいる誰かがいる。この人は……誰……?
「おい、エレ――! はや――しろ!!」
「わかってま――! これでもい――でやってるんですよ!」
他にも何人か人がいるみたいだ。でも、意識がはっきりしていないためか、言葉をうまく聞き取れない。
「う、ぐッ……」
いや、それよりもこの激痛は何? 死ぬ程痛い。
……そうだった、なんで忘れていたんだろう。私は、あの聖なる剣に殺されそうになって……。
「しっかりしろ! キリエッ!!」
どれくらい時間が経ったのだろう。気を失っていた私には、全くわからない。
意識がはっきりしてきて、今どういう状況なのかが徐々にわかってきた。
今この場にいるのはランツァ、キリエ、ウィリアム、レリア、ガルメラ、ジェネス、そして、アキとエレシスだ。どうやら、ブラックとの闘いで死と隣り合わせだった私達を、アキとエレシスが助けてくれたらしい。今はレリアも加わって、皆の傷を治している。
「勝ったのね……」
キリエが独り言を呟いた。その時、キリエはある事に気付いた。
ブラックの姿が見当たらない――。
まさかあの重傷で、ここから逃げたというのか!?
「ねえ皆……ブラックは……」
急に妙な不安に駆られて、キリエは皆に聞いてみた。
「あいつは」
「あいつなら俺が消した」
最初にガルメラが答えようとしたが、それをランツァが無理矢理遮って言い放っていた。
「消した……?」
「ああ……」
「どういう意味……?」
「俺は、許せなかった……。皆を傷つけ、俺の親友の心を苦しめた、あいつを……」
ランツァは淡々と語っていた。そのせいか、その怒りは恐ろしい程に伝わってきた。
「だから……、この世界から消した……」
ランツァの目から、ほんの一滴の涙が流れ落ちた。
「だめだな、俺は……。あの時から、俺は殺してばかり……。相手が悪魔とはいえ、やってる事はあいつらと変わらねえよな……」
その言葉を聞いて初めて、ランツァの涙の意味を、皆が悟った。
「仲間を護るためとはいえ、他の奴を殺していいわけがねえんだ……」
「当たり前ですよ」
唐突に、エレシスが小さく呟いた。しかし、その声は周囲によく響いていた。
そして、エレシスは言葉を紡ぐ。
「ですが、被害を抑えるためには仕方のない事だと、僕は思います」
「エレシス……」
エレシスのフォローに涙を堪えながら、ランツァは笑顔を浮かべて言う。
「そうだな」