第百話 諸刃の十秒間
遂に、聖なる剣の全体が明らかになった。
水晶のように美しく、透き通った刀身。鍔の代わりに、大天使の翼と思えるものがついている。そして、刀身の根本には青い宝石のようなものが埋め込まれていた。
その美しさは、抜いた本人であるキリエですら、魅了されてしまうくらいだ。
「綺麗……」
キリエはそう呟いた後、即座にもう片方の剣も抜刀する。両方とも、信じられないような美しさだ。
そうキリエが思った時、あの言葉が脳裏を過ぎった。
『それに命を奪われるかもしれないからね』
何が原因なのか、全くわからない激痛によって――。
「あああああああああああああああああああああああッ!!!」
全身が、まるで地獄の炎に焼かれているみたいだ。……いや、それよりももっと痛いに違いない。
刺すような痛みに耐えかねたキリエが、大地に両膝と両腕をついた。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い――。
「あああ……ッ」
あまりにも痛すぎて、勝手に涙が溢れてくる。
目の前に敵がいるというのに、こんな状態じゃ……。
「墓穴を掘ったな、ウリエルよ」
案の定、ブラックはキリエを殺そうとしていた。
高く掲げられる、ブラックの剣。
それを見て、キリエは遂に決心してしまった。
諸刃の剣となる事を――。
「残念だけど、負けるのはあなたの方よ、ブラック」
この調子だと、痛みに耐えられる残り時間は、たったの十秒。それを超えれば、私は――死ぬ。
振り下ろされるブラックの剣を、キリエは右手の方の剣で軽々と受け流す。
そして、左手の方の剣でブラックの胸を貫いた。
「がはッ!!」
返り血が飛び散ってくる中、それでもキリエは攻撃を止めなかった。
一対の剣による、連続斬り。その回数は、両手両足の指を使っても決して数える事などできなかった。
それだけ、キリエは怒っていたのだ。
「終わりよ! ブラック!!」
為す術もないブラックの胴体に、キリエは剣を交差させて斬り払う事で、✕印を刻み込んだ。
全身を斬り裂かれたブラックが、初めて、背中から倒れた。
そして漸く、キリエは一対の聖なる剣を鞘に収めた。
――九秒、間に合ったのかな。
直後、キリエはランツァ達全員に向かって微笑み、地に倒れてしまった――。