第九十九話 高速化
「終わったか……」
断罪刃により生じた爆風と爆音が治まりつつある中、ランツァはそう呟いていた。
「……いや、まだだ」
突然、ランツァの背後から発せられた声。
嫌な予感を抱えつつ、ランツァはその声の主の方へ視線を向けようと振り返る。
「てめえ……ッ!!」
終わってなどいなかった。
ブラックはまだ、殺意を捨ててはいない。
「いでよ! 断罪神!!」
「遅いッ!!」
ランツァは再び、断罪神を召喚しようとしたが、間に合わなかった。
ブラックの剣の方が、素早かったのだ。
剣に斬り裂かれたランツァは、あまりにも呆気なく、大地に全身を預けてしまう。
「私の能力は高速化だ! 私自身を含め、この手で触れたあらゆる物のスピードを加速させる能力だ! 君のような発展途上の大天使に、この私が、負けるはずがないんだよ!!」
「……だったら、長い間、天使として生きてきた私なら……どうなるのよ……」
フラフラと立ち上がる大天使が、ブラックを怒りの瞳で睨みながら、小さく叫んでいた。
「ウリエルだと……。まだ立ち上がれる力が残っているのか……!?」
そんなキリエに対して、僅かではあるが、ブラックの心に恐怖が生まれる。
「私はね、仲間を傷つける者は、たとえ誰であろうと……誰であろうと……」
遂に、第三の大天使、ウリエルであるキリエが、心の底からの怒りをぶち撒ける。
「絶対に許さないのよッ!!」
キリエが力任せに鞘から剣を抜く。
あの、聖なる剣を――。
ネール婆ちゃん、私はもう、絶対に躊躇わない。
皆を護るためになら、絶対に――。