第九十八話 超越者、ガブリエル
剣と剣が交錯している状態から、ランツァは無理矢理、ブラックを剣で押し飛ばした。
二度も同じような攻撃をすれば、流石に対処されるというのか。ブラックは空中で回転し、地面に軽く手をつく事で体勢を立て直す。
「悪いが、一瞬で勝たせてもらうぜ」
ランツァはそう言うと、突然、剣を投げ捨てた。
「……何をしている?」
「剣を捨てただけだが……? もう俺には、この剣は必要ねえしな」
その時、ランツァの右手が黒いオーラに纏われた。
「俺は……もう一つ特殊な力を手に入れたんだ」
「……どういう事だ?」
ブラックの問いに、ランツァは苦笑を返した。別に答える必要がなかったからなのか。既にランツァの右手には、答えのようなものが握られていたのだ。
黒いオーラが、少しずつそれに変わっていたのだ。
漆黒の大剣。
刀身には、妙な赤い模様が刻み込まれている。そして、大剣の巨大さは呆れ返る程のものだった。ランツァの背丈の倍はあるだろう。
「冥土の土産に、軽く説明してやる」
唐突に、ランツァがそう言い放った。
「俺は今、二つの能力をもっている。一つは大小操作。もう一つは、物体召喚。原則、天使や悪魔は特殊な能力を一つしか使えないようになっている。だが、俺はその決まりをぶち壊し、二つの能力を手に入れた。正直、どうやったのかは俺にもわからねえが……」
「…………」
ブラックは言葉を失っていた。
その意味を、少し離れたところで休んでいるレリアが説明する。
「ランツァ……あんた、選ばれし者だったのね……。天使と悪魔の中で、唯一複数の能力を扱う大天使……いや、大天使すらも超越している者『ガブリエル』……」
「……そうか。まあ、別に俺が何であっても、てめえを殺す事には変わりねえけどな」
ランツァはそう言いながら、ブラックを睨みつけた。
「もう一つ、冥土の土産に俺の必殺技を見せてやる」
ランツァは呪文のように小さく呟く。
「いでよ、断罪神」
直後、ランツァの背後の空間に亀裂が走った。その空間の亀裂をさらに広げ、異空間から巨大な何かが出てこようとしている。
「何だ……それは……!?」
ブラックは、異常なくらい強大すぎる力が二つも眼前にある事に恐怖する。
「俺が創りあげた、俺の味方のようなもんだ」
遂に異空間から出てきたそれは、全長十メートルもあるかもしれない。人の形をしている、白銀の巨大な大天使みたいだ。全体的にロボットにも似ているが、巨大な純白の翼は紛れもなく大天使のものだ。
「こいつの名は、断罪神。俺と共に闘い、そして、俺自身の力量を大幅に上げる事もできる、強力な味方だ。俺の能力、物体召喚は俺が想像したあらゆる物をこの世界に召喚し、操る能力だ。それを使ってこいつを召喚している、ただそれだけの事だ」
「く……ッ!」
「そして、こいつを使う事で、初めて俺の必殺技は完成する」
ランツァが漆黒の大剣を掲げる。
「断罪神、俺の断罪剣に力を与えよ」
掲げられた漆黒の大剣に吸い込まれるように、断罪神の姿が消えていく。それと同時に、刀身の赤い模様が輝きを増した。
「いくぜ、ブラック」
身の危険を察知し、ブラックは漆黒の翼で自身を最大限まで強化し、防御体制を取る。
「断罪刃!!」
漆黒の大剣が、ブラックを襲った。
直後、この場は凄まじい爆風と爆音で埋め尽くされていた。