第九話 堪忍袋、切れる!!
ホームルームが終わり、巨人が教室から出て行くと同時に、ランツァの周りに人だかりができる。
「なあ、夏休みに何があったんだ?」
クラスの一人が言う。
「お前って夏休みも寮で生活してるんだって聴いたけど。その間に何かあっただろ?」
別のクラスメイトが言う。
だが、彼は、
「まあ、まずは落ちつけ。それはいろいろあってな……。話さない方が、俺にとってもいいんだけど……」
「勿体ぶるなよ」
最初に話しかけてきたクラスメイトがそう言った。
「それじゃあ、耳を貸せ」
そう、彼が言った瞬間、周りにいる者たちが我先にと、押し寄せてくる。
そして、ヒソヒソと話す。
「実はな……、巨人は優しいんだ」
一瞬だけ間が空く。
そして、
「ぶっ!」
笑い声が。
「あぁっはははははははは」
笑いに逆らいながら、こう言う者がいた。
「冗談だろ? あの巨人が。ほんと、冗談にも程があるだろ! がははははは」
中には、笑いすぎたせいで腹を痛め、床に平伏す者までいる。それだけ、馬鹿馬鹿しいと思うことなのだ。
実際、この目で見ない限り信じないだろうと、彼は思う。
しかし、それは事実なのだ。
何となく自分が馬鹿にされている気がしてきたが、そこは堪えておいた。
そして、彼をフォローする者がたった一人だけ。
「本当さ。俺、この目で見たから」
ウィリアムだった。
「ウィリアム……」
その時、聞き捨てならないことを聴いてしまう。
「ヘルス君よぉ。まさか、こいつの言うことを信じるわけ? てめえもただのアホってことか?」
周りの空気が一変した。
なぜなら、馬鹿馬鹿しいと思っているとしても、そこまでは言わないからだ。普通なら。
「クソ野郎が!! 言いたいだけ言いやがってよ!!」
「てめえの言いたいことはそれだけか? 俺はな、てめえみてえな無知な人間が大嫌いなんだよね」
「クズが……」
もう限界だった。
彼の怒りの数値が。
だが、そこでランツァが止めに入ったのだった。
「止めとけウィリアム。無駄にケガ人が出るだけだ」
「ひゅー。優しいねえ。君の方が断然、巨人よりも優しいんじゃないのかな?」
止めに入ってはいるのだが、彼も彼でもう限界だった。
ランツァがそのムカツク野郎を睨みつけたのだから、それは周りの者達も察していた。
「何だよ。てめえもそこのヘルスのクソ野郎と一緒か? ムカツクんだよ、そういう目っていうのはよ!」
そして、最後にこう付け加える。
「決闘だ。てめえらみたいなクソったれは一度ぶちのめさなきゃ、気が済まねえ。まずは、ウィリアムからだ!」
ウィリアムは遂にキレる。
「上等だぜ、クソったれが!!」